【2019年4月施行】産業医の権限が強化! 企業の取るべき対応はどうなる?

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公開日:2019.3.27

労働者の健康や衛生、安全を守るために事業所(事業場)内に配置されている医師のことを産業医と言い、一定の規模以上の事業場には選任が義務付けられています。働き方改革関連法では産業医の役割が拡充され、事業場は産業医に適切な情報を伝え、産業医からの勧告を衛生委員会に報告する必要が生じています。今回は、企業が産業医を選任する場合の条件や産業医の役割、法改正の内容について解説していきます。

そもそも産業医とは?

産業医とは、事業場における労働者の健康・安全・衛生を守るために、専門的な立場から指導・助言を行う医師を指します。労働安全衛生法により、一定規模の事業場には産業医の設置が義務付けられています。

   

産業医の役割

産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に定められています。「医学に関する専門知識を必要とするもの」と規定されており、具体的には以下の事項に分かれます。

健康診断および面談指導の実施と、これらの結果に基づく労働者の健康への措置

健康診断の結果を確認し、意見書の作成を行います。異常の所見があると診断された労働者に対して、通常業務ができるか、休業が必要かなどを判断します。意見書には法的拘束力はありません。しかし、産業医は医学的専門性を備えているため、企業が合理的な理由なくその意見を無視して問題が生じた場合は、企業に責任が問われる可能性があります。

職場巡視等の作業環境の維持管理

チェックリストに基づき、原則として少なくとも月1回以上の職場巡視を行います。チェック項目に該当する場合は、衛生委員会などへ報告し、改善措置が検討されます。

健康教育・安全衛生教育

労働者の健康について、面談以外に講話などでの指導も行います。安全衛生についても、巡視だけでなく講話などでもその方法を指導します。これらは企業に義務はないので、実施しない場合にも罰則はありません。

衛生委員会への参加

常時50人以上の労働者が働く事業場では、衛生委員会を設置しなければなりません。衛生委員会は衛生に関することを調査審議し、事業者へ意見を述べます。月1回以上の衛生委員会の開催が定められており、産業医も出席することができます。

労働者の健康障害のチェック・原因調査・再発防止

ストレスチェック等の調査票の策定や、高ストレス者の選定基準について指導します。健康障害の所見がある労働者に対しては、その原因の調査と再発防止に努めます。

   

産業医・産業保健機能の在り方

労働安全衛生法が制定された1972年から現在までの間に、産業構造や経営環境は大きく変化しています。それに伴い、産業医や産業保健機能全体に求められる役割や、労働者の健康確保のあり方も変化していると言えるでしょう。具体的には、以下の対策の実現が求められます。

これらの実現のためには、企業が個々の労働者の価値観や選択を尊重し支えていく体制づくりが必要です。

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「働き方改革関連法案」で産業医はどう変わる?

2019年4月から施行される働き方改革関連法により、産業医・産業保健機能が強化されます。働き方改革関連法の労働安全衛生法領域では、「労働者の健康確保のための産業医・産業保健機能の強化」として、以下の2つの対策の方向性が打ち出されています。

事業者における労働者の健康確保対策の強化

長時間労働や高ストレスなどによる過労死等のリスクが高い労働者を見逃さないため、産業医による面接指導や健康相談等が確実に実施される必要があります。そのため、産業医から事業者に対する勧告手続きの整備に加え、事業者から産業医へ必要な情報提供がされなければなりません。

また、これまで事業者が労働者の健康相談等を継続的かつ計画的に行うことは努力義務とされてきましたが、今後は労働者が産業医に直接健康相談ができる環境の整備が強化されます。事業者による労働者の健康情報の取り扱いについても必要な指針を公表し、事業場ごとに検討・決定されます。

産業医がより一層効果的な活動を行いやすい環境の整備

産業医の独立性や中立性が高められます。産業医は、専門知識に基づいた職務を行い、産業医学に関する知識と能力の維持向上に努めなければなりません。

また、産業医がより効果的に活動するためにも、労働者の業務に関する情報等、必要な情報が提供される仕組みが強化されます。衛生委員会への積極的な提案を行う権限など、その他産業医の権限も明確化されます。

   

産業医の設置が必要な企業

労働安全衛生法により、産業医設置のルールは以下のように定められています。

  • 労働者50人未満の事業場では努力義務
  • 労働者が常時50人以上の事業場では産業医1人設置の義務
  • 労働者が常時3,001人以上の事業場では産業医2人以上の設置義務

通常、産業医は非常勤(嘱託)で構いませんが、以下の場合は専属の産業医設置が必要となります。

  • 労働者が常時1,000人以上の事業場で専属産業医1人
  • 労働者が常時500人以上かつ一定の有害業務に従事させている事業場で専属産業医1人
    (有害業務とは、労働安全衛生規則第13条第1項第3号イ~カで定められている業務を指します)
  • 深夜稼働の工場等で専属産業医1人

産業医設置の義務を果たさないと、50万円以下の罰金が科せられます。その他不利益が生じる可能性があるため、産業医選任の義務がある場合は必ず設置する必要があります。

   

産業医の選任方法

産業医の選任方法は会社法などによって特に定められておらず、一般的な契約締結の形で行います。健康診断を依頼している病院などに相談し、紹介してもらうケースが一般的です。また、地域の医師会や医師の人材紹介会社に相談することも産業医の見つけ方のひとつです。

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まとめ

働き方改革関連法施行による産業医の機能強化について、産業医の役割と法改正のポイントを中心に説明してきました。産業医・産業保健機能の強化では、労働者の健康を管理するための産業医の環境整備や、労働者に対する健康相談の体制整備などが言及されています。企業が労働者の健康を配慮することで、生産性の向上や離職率の低減などの効果も得られます。産業医の機能が拡充することは、今後企業の健康経営の体制強化にもつながるでしょう。

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