月60時間の時間外労働どうなる?中小企業の法定割増賃金率引き上げについて解説

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公開日:2019.3.29 最終更新日:2023.12.27
2023年_労働基準法_イメージ

労働基準法では、法定割増賃金率は月60時間以内の時間外労働について25%以上、月60時間を超える時間外労働について50%以上とすることが定められていました。しかし、中小企業においては、月60時間を超えても割増率は25%と猶予が認められていました。働き方改革関連法の成立により、2023年4月からはこの猶予が廃止され、中小企業でも月60時間を超える時間外労働について法定割増賃金率が50%以上となっています。今回は、法定割増賃金率引き上げの概要と、引き上げで企業が行うべき対応について解説していきます。

法定割増賃金率引き上げとは

概要

2023年4月以前の制度では、1か月間で60時間を超える時間外労働をさせた場合、その超えた分の時間外労働については法定割増賃金率が50%以上となっていました。しかし、経営力が必ずしも強くない中小企業に対しては50%以上への引き上げが猶予され、60時間を超える分の時間外労働の法定割増賃金率も25%以上に据え置かれていましたが、働き方改革関連法が成立したことによって、2023年4月からは中小企業でも法定割増賃金率が50%以上になりました。

この法定割増賃金の引上げにより、例えば、1か月に70時間の時間外労働をさせた場合には、60時間分の時間外労働に関しては割増賃金率25%以上、60時間を超えた残りの10時間分に関しては割増賃金率50%以上が適用されるようになりました。

目的

2023年4月の法定割増賃金率引き上げの背景には、現状、人手不足が深刻な中小企業において、魅力ある職場づくりがその解消につながるのではないかという狙いがあります。法定割増賃金率の引き上げは、労働者の通常とは異なる特別な労働に対する補償の充実や、時間外労働の減少をもたらし、魅力ある職場づくりに貢献すると考えられます。このように形成された魅力的な職場が人材確保を促し、優秀な人材を確保しやすくなることによって業績が向上し、ひいては利益が増えるといったような好循環が望まれます。


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割増賃金率引き上げ後の計算の変化

基本給+手当(月給に含められるもの)が243,000円、年間所定休日122日、1日の所定労働時間が8時間の労働者のケースについて、割増賃金率引き上げによる変化を考えてみましょう。また、1ヶ月の起算日を毎月1日、休日出勤はなかったものと仮定します。

まず、この1年間における、1ヶ月の平均所定労働時間は以下のように計算されます。

(365日―所定出勤日数)×8時間÷12ヶ月=162時間

平均所定労働時間と月給から、1時間当たりの賃金が計算できます。

243,000円÷162時間=1,500円

仮に、残業時間が月80時間だった場合、60時間分が25%割増、20時間分が50%割増となり、残業代は以下のようになります。

(1,500円×1.25×60時間)+(1,500円×1.50×20時間)=157,500円

引き上げ以前は、残業代が150,000円となるので、7,500円の差が生まれます。

法定外休日の出勤や深夜労働があった場合には、それぞれの割増率が加算されます。例えば、月の残業時間が60時間を超えた時点からは、深夜労働をした場合に上記の例だと一時間当たり1,500円×(1.75(時間外割増50%、深夜労働割増25%))=2,625円の賃金が発生します。

    

法定割増賃金率引き上げで企業が行うべき対応

法定割増賃金率引き上げによって、企業には人件費の変動などの影響が生じます。そのため、法定割増賃金率引き上げで企業が行っておくべき対応について考えて挙げていきます。

労働時間の適正把握

まずは、労働者の現状の労働時間が適正であるかを確認します。業務内容の整理から始め、業務フローの整理、業務ごとの担当者の確認を行うと良いでしょう。労働者ひとり当たりの仕事量に偏りがある場合は是正するようにしましょう。これにより、時間外労働時間が平準化され、60時間を超える労働者が減るはずです。それでも60時間を超える労働者が多くいる場合は、新たに労働者を雇い入れることも考慮しましょう。

業務の効率化

時間外労働を減らしたい場合、業務の効率化が効果を発揮します。例えば、機械の導入や業務のマニュアル化などが考えられます。業務が効率化されることによって、生産性の向上など、時間外労働削減以外のメリットも享受できます。しかし、初期投資費用なども必要となるので、今後の成長へのヴィジョンや、財務状況を考慮したうえで取り組む必要があります。

勤怠システムの整備

勤怠管理システムに問題がないかどうかも合わせて確認しておく必要があります。例えば、自己申告で労働時間を管理している場合などは、適切に時間外労働賃金を支払えていない可能性もあります。働き方改革の観点からも、より厳密に労働時間を管理できるシステムに移行すると良いでしょう。また、法定割増賃金率の引き上げによって、時間外労働時間に関して一層シビアになるので、適宜労働時間に対するアドバイスや是正勧告を行えるようなシステムを導入すると良いでしょう。

代替休暇の検討

代替休暇とは、1か月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、60時間を超える労働時間の割増賃金に代えて有給休暇を与えるという制度です。制度の利用には、労使協定を結ぶ必要があります。労使協定を結んだからと言って、労働者に代替休暇の利用を義務付けることはできず、代替休暇を取得するか否かの判断は労働者に委ねられます。

代替休暇の時間数は以下のように計算されます。

代替休暇の時間数=(1ヶ月の法定時間外労働時間-60)×換算率

なお、換算率とは、「代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率」と「代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率」の差を指します。

例として、時間外労働の割増賃金率が30%で、60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%である場合を考えてみましょう。時間外労働を80時間行ったとすると、規定の60時間を超えた20時間分において、60時間を超えたことによる割増賃金率の増加分である20%分を割増賃金として支払う代わりに、20時間の20%である4時間分の有給休暇を与えることができます。

ただし、原則として60時間を超えることによる法定割増賃金率の増加分のみしか休暇として代替できないという点に注意が必要です。また、60時間を超えた月の末日の翌日から2ヶ月以内に与えなければなりません。加えて、この代替休暇は法定割増賃金率引き上げ後にしか利用できません。労働者の健康状態を守るためにも、利用を検討してみると良いでしょう。

    

まとめ

今回は、法定割増賃金率引き上げについて確認してきました。中小企業にとっては、短期的に見ると人件費が増加する可能性が高く、デメリットばかりであるように感じられるかもしれません。しかし、より長期的な観点からは、これを機に職場環境の改善や業績アップが可能になるということも見込めます。長い目で見て適切な対応を行えば、今後の企業の成長につながります。

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