同業他社への転職を制限する、競業避止義務とは?

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公開日:2020.7.6

競業避止義務とは、企業が不利益を被らないように労働者に対して同業他社への転職などを禁ずる誓約のことを指します。しかし、就業規則や誓約書で競業避止義務を設定したとしても、職業選択の自由があるため同業他社への転職を完全に制限することはできません。今回は、競業避止義務の意味や目的、法律上での扱いと、競業避止義務の有効性を判例をもとに解説していきます。

競業避止義務とは

競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)は、労働者が雇用上の地位を私的に利用して、競争的な性質の業務取引を行うことを禁止する義務のことです。労働者が属する企業や組織の競合他社に属したり、競業に当たる会社を設立したりすることを防止します。競業避止義務の対象者は、在職中・退職後の行為者に限ります。
この規則は入社時の誓約書や就業規則に記載されているケースが多く、署名の形で同意を求められます。所属する企業にもよりますが、義務に違反した場合の罰則規定として、退職金の支給制限や損害賠償の請求、競業の差止請求などが設けられています。

競業避止義務の意味と目的

競業避止義務には、会社の利益を不当な侵害から守るという目的があります。特に、転職が増えて雇用の流動化が進んだ昨今において、企業の機密情報や内部ナレッジにまつわるリスク管理はより重要な課題となっています。
自社を退職した社員による内部情報の持ち出しや起業、従業員の引き抜きが横行すると、重要な内部データのみならず、時間をかけて培ったスキルやノウハウ、企業文化をも失いかねません。さらに、機密情報などの秘匿性が高い内部データには自社だけでなく顧客情報が含まれている場合もあるため、プライバシー保護の観点からも黙認することはできません。このような重要な企業資産を競合他社に使われないよう、在職中・退職後の社員に対して競業避止義務を定めるようになったのです。

競業避止義務の法律上の扱い

競業避止義務は法律で定められているものではありませんが、労働者は企業と契約した上で労務を提供する存在です。そのため、法律に定めがなくとも会社に対する誠実義務を負っており、コンプライアンスを遵守することが求められます。
なお、日本は「職業選択の自由」が法律で保障されているため、競業避止義務があっても自由に転職することができます。競業避止義務が規約などで定められていたとしても、会社の利益を不当に損ねることがなければ訴訟問題に繋がるようなことはありません。

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判例からみる競業避止義務の有効性

前述のとおり日本では法律によって職業選択の自由が保障されているため、基本的には自由に転職したり起業したりすることができます。しかし、競業避止義務が適用されるか否か、判断が難しいケースもあります。以下では経済産業省の資料に基づいて当該義務の判断基準を解説した上で、具体的な判例をご紹介します。

経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」にみる有効性の判断

  • 守るべき企業の利益の有無
    「企業が守るべきノウハウやナレッジを保持しているか」「情報流出によって会社の利益を損なうものがあるかどうか」という点が判断材料です。過度な競業避止義務契約によって職業選択の自由を制約しないように配慮すれば、企業の競業避止義務契約の有効性は認められるようです。
  • 従業員の地位
    有効性の判断は、労働者の地位ではなく、競業避止義務を課すのに値する労働者であるか否かという観点で判断されると考えられます。高い地位にいる労働者であっても守るべき情報に接していなければ、有効性を認めていない判例も見られます。
  • 地域的な限定の有無
    事業の内容や事業を展開する地域が考慮されることがあります。
  • 競業避止義務の存続期間
    存続期間は、業種の特徴や企業利益の面から総合的に判断されているようです。判例によると、1年以内の期間については競業避止義務が肯定的に捉えられているケースが多いようです。近年では2年以上の期間については否定的な見解が示される傾向にあります。
  • 禁止される競業行為の範囲に関する制限の正当性
    競合他社への転職や競合となり得る事業を展開することは、合理性が認められるケースが多いようです、一方で、在職中や前職に担当した顧客への営業活動などは、有効性判断が肯定的に捉えられる傾向にあります。
  • 代償措置の有無
    代償措置と呼べるものが存在しない場合には、有効性が否定される傾向にあります。ただし裁判所は複数の要素に鑑みて判断しているため、代償措置の有無によってのみ判断がされるわけではありません。

判例1:退職後すぐに競業他社に転職し、有効性が認められた例

家電量販店の店長を歴任し販売や管理方法に熟知した社員が、退職翌日に競業他社に就労した事例です。本件では、店舗における販売方法や人事管理のあり方、全社的な営業方針、経営戦略などの知識や経験を有する従業員が、退職した後すぐに直接の競争相手である家電量販店チェーンを展開する会社に転職しました。転職先の会社にとって原告が相対的に不利益を受けることは容易に予想できたため、これを未然に防ぐために被告のような地位にあった従業員に対して競業避止義務を課すことは不合理でないと判断されています。(東京地判 2007/4/24)

判例2:期間の長さや代償措置の有無をふまえ、有効性が否定された例

技術系のノウハウを持ったサービスエンジニア職の従業員の転職が争点になった事例です。ビル管理業に関する事案で、原審では前職に属していた1年という期間が短いと判断されました。しかし、控訴審では期間の長さの妥当性については個別に判断せず、代償措置がないことなどを強調して、規定自体が職業選択の自由に対する重大な制約となると判断されました。(東京高判 2010/4/27)

判例3:禁止範囲が限定的で、有効性が認められた例

雇用関係が終了した後の1、2ヶ月の間、担当した相手に対するコンサルティングや教育、勧誘行為を行ったことが争点になった事例です。教育やコンサルティングを担当・勧誘した相手に対し、原告と競合して同様の行為を行わないという誓約書について、禁止期間や業務の範囲に鑑み、公序良俗に反するといえるほど被告の営業活動を過度に制約するものではないと判断されました。(東京地判 1994/9/29)

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まとめ

競業避止義務は会社の利益を守るための規約で、職業の自由を制限するものではありません。企業も労働者も、お互いに倫理観を持って健全な信頼関係を築くことが重要です。

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