コーポレートガバナンスコード改訂で企業が求められる対応とは?

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公開日:2022.1.7

2021年6月11日、改訂コーポレートガバナンスコードが施行されました。改訂版では、サステナビリティやダイバーシティに関する原則が追加され、対象企業は、新しい時代に向けた経営方針の策定や組織づくりなどに取り組む必要があります。この記事では、コーポレートガバナンスコードの意味や改訂の背景と具体的な変更点、行うべき対応について解説していきます。

コーポレートガバナンスコードの基本を学ぼう

コーポレートガバナンスコードとは

コーポレートガバナンスコードとは、東京証券取引所における上場企業を対象にした、企業統治のためのガイドラインです。株主・お客様・従業員・地域社会など、さまざまなステークホルダーと企業の望ましい関係性や組織のあるべき姿について記述されています。日本最大の証券取引所である東京証券所において、上場銘柄の信頼性を高め、より安全で豊かな市場を形成することを目的に、より良い企業運営を提示しているのです。
コーポレートガバナンスコードは、​​抽象的なレベルでの原則を示した「基本原則」、基本原則をより具体化した「原則」、原則をさらに具体的な行動レベルで示した「補充原則」で構成されています。2015年に金融庁と東京証券取引所が共同でコーポレートガバナンスコードを策定し、2021年6月に改訂が実施されました。

対象の企業

コーポレートガバナンスコードが適用される企業は、東証の上場企業です。このうち、東証第一部と第二部の上場企業については原則・基本原則・補充原則の全原則が、マザーズとJASDAQの上場企業は基本原則についての遵守が求められます。遵守できない項目がある場合には、その理由を説明しなければなりません。一方、東証の上場企業ではない企業については、コーポレートガバナンスコードは適用対象外です。

法的拘束力の有無

コーポレートガバナンスコードに法的拘束力はありません。従って、コーポレートガバナンスコードを守らなかった場合にも、罰則や課徴金などの決まりは設けられていません。ただし、違反企業は東証による公表措置の対象になるため注意が必要です。違反したという事実が公になれば、企業の評判や株価にマイナスの影響を及ぼすため、東証上場企業にとってコーポレートガバナンスコードは無視できないガイドラインなのです。

改訂される背景

新型コロナウイルス感染症の影響によって、世界は大きく変わりました。企業においても、働き方改革の推進や、企業戦略の刷新など、厳しい状況で生き残っていくためにさまざまな取り組みを行っているでしょう。さらに、ESGやSDGs、サステナビリティなど、時代の変遷によって新たな価値観が認知されてきています。企業は、経済社会を支える重要な役割の担い手として、これらを積極的に実践し、社会に良い影響を与えていく責務があると考えられています。企業に変革のビジョンを共有し、より社会的な存在意義を高めるために必要な指標を示すため、コーポレートガバナンスコードが改訂されたといって良いでしょう。

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改訂コーポレートガバナンスコードの変更点

今回の改訂では、既存のコーポレートガバナンスコードに対して、原則の新設や追加、修正が施されました。改訂における大きな3つのポイントと、そのほかの課題についてそれぞれ見ていきましょう。

取締役会の機能向上を図る

コロナ禍においては、思い切った事業転換や新規事業への挑戦が必要不可欠です。そのため、企業の意思決定機関である取締役会の果たす役割は、より大きくなっているといえるでしょう。厳しい状況のなかでも、社会の持続可能性に配慮した企業活動を推進し、さまざまな課題をクリアしていくためにも、取締役会の指揮機能の充実が必要です。改訂コーポレートガバナンスコードでは、以下の変更や修正が加えられました。

  • プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任する(※必要な場合には、過半数の選任の検討を推奨)
  • 指名委員会、報酬委員会の設置(※プライム市場上場企業は、独立社外取締役が委員会の過半数になるよう選任する)
  • 経営戦略に照らして、取締役会が備えるべきスキルと、各取締役のスキルとの対応関係を公表する
  • 他社での経営経験を有する経営人材を、独立社外取締役へ選任する

なお、ここでいうプライム市場とは、2022年4月に現在の1部、2部、マザーズ、ジャスダックを、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編することで誕生する新たな市場区分を指します。1部よりもさらに厳しい基準が設けられているのが、プライム市場です。

中核人材の多様性を確保する

管理職などの中核人材において、多様性の確保が項目として追加されました。具体的には以下の内容が盛り込まれています。

  • 女性・外国人・中途採用者を管理職に登用するなど、多様性の確保についての考え方と測定可能な自主目標を設定する
  • 多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針・実施状況の公表

サステナビリティに取り組む

持続可能な社会への取り組みとして、環境面への配慮だけでなく、人権の尊重や労働環境の整備など、人的資本に対しても適切な配慮が求められています。

  • サステナビリティについて基本的な方針を策定し、自社の取り組みを開示する
  • プライム市場上場企業において、TCFDまたはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させる

そのほかの課題

そのほかの課題としては、グループガバナンスのあり方やプライム市場での株主総会の運営方法など、以下の内容が改訂されました。

  • プライム市場に上場する子会社において、独立社外取締役を過半数選任するか、利益相反管理のための委員会を設置する
  • プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示を促進する

  

改訂コーポレートガバナンスコードで企業が必要な対応

原則を実施と未実施に分類する

改訂コーポレートガバナンスコードのそれぞれの原則に対して、現時点で自社が実施しているものとそうでないものの仕分けを行いましょう。女性や外国人の管理職登用や、環境配慮などの項目については、すでに実施している企業も少なくありません。改訂版の内容をよく確認し、自社が新たに取り組まなければならない課題を整理しましょう。特に、開示原則は実施にあたり特定の事項を公開する必要があるため注意が必要です。開示している書類を精査して、実施と未実施を判断しましょう。

原則への対応方針を検討する

未実施に分類された事項について、今後どのように対応していくか検討する必要があります。企業全体の改革につながる事項の場合は、取締役会で審議を行って決定しましょう。企業の課題や経営状況などから優先順位を決めて取り組む必要があります。
また、開示原則を実施する場合は、具体的な開示内容も検討しなければなりません。企業ならではの方針や事情が開示内容に十分に反映されていて、ステークホルダーの理解を得られるようにまとめる必要があります。

報告書を提出する

決定した内容を報告書にまとめましょう。実施しない原則は各原則を実施しない理由欄に、開示原則は各原則に基づく開示欄に、それぞれ原則の項番を付して記載します。報告書の提出期限は遅くとも2021年12月末日までとされています。ただし、プライム市場上場企業のみを対象とする原則などを踏まえている場合は、2022年4月4日以降からの提出で問題ありません。

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まとめ

コーポレートガバナンスコードは、市場の安定的な取引の確立と、豊かな資金流のために大切なガイドラインです。ただし、上場を維持するために守らねばならない規定というだけでなく、企業の今後のあり方をサポートする指針でもあるでしょう。企業統治の基本的な考え方や理念が示されているだけでなく、企業が取り組むべき具体的な課題にも言及しています。コーポレートガバナンスコードに沿った企業運営は、企業経営にも良い影響を与えるはずです。

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