ウィズコロナ時代を生き抜くために、多くの企業が模索をしているなか、新たな挑戦をする企業が注目されています。「株式会社ひびき精機」は、高精度なものづくりを続けながら、ローカル5Gを採用した「スマートファクトリー」に取り組む企業です。「グッドカンパニー大賞」や「やまぐち健康経営優良認定企業」など、その取り組みは経済・社会的に認められています。
今回は、株式会社ひびき精機の経営者である松山英治氏に、コロナ禍での取り組みやその想いについて伺いました。
ウィズコロナの市場の動向
コロナ禍での経済社会への影響は大きく、飲食産業や航空産業が大きな打撃を受けたことは多く報道されています。そのような中でアフターコロナでの社会の変容を見据え、生産性向上のための投資を行ったり、新たな事業を展開したりする取り組みを支援する政策が打ち出されています。
例えばDX投資促進税制は、製造原価の削減や生産性向上などのために、データ連携やクラウド活用などに投資すると、税額控除または特別償却が受けられる制度です。
別の例として事業再構築助成金制度は、コロナの影響を受け売り上げが減少している企業に対し、新分野展開・事業転換などの事業再構築を行った場合に助成金が受けられる制度です。
今後、このような支援政策のもとで新たな挑戦を始める企業が増えると見込まれています。そこで、今回はウィズコロナでも挑戦を続けている「株式会社ひびき精機」の松山氏にお話を伺いました。
▲株式会社ひびき精機
山口県をリードするひびき精機とは
--ひびき精機様はどのようなことをされている企業なのでしょうか。
私たちはアルミニウムやステンレスなど錆びない金属をメインに、「設計者の想いをカタチにする」というキャッチフレーズで、主に半導体の製造装置の心臓部となる大事な部品をお客様からいただく図面通りに形にしていくという業務をしています。大型で薄く、加工が非常に難しい部品ですが、高精度に仕上げて納品しています。
私たちの企業には、100名を超える社員が在籍しており、その多くは18歳から52歳くらいまでの年齢層に入ります。不景気な時も30年間継続して雇用を続けてきたため、平均年齢は32歳と非常に若く、年齢分布にかたよりのない人財構成が実現できています。この人財構成を活かし、職人のノウハウを伝承しながら、技術・技能をコツコツと育てることで、企業が成長しています。
--若い方も年配の方もモチベーションを高く保っているように見受けられますが、その秘訣を教えてください。
一番気を付けているのは、高校を卒業したばかりの若手社員にも伝わるように、社長から発信するメッセージは可能な限り簡潔に表現することです。例えば、経営理念として「お客様に信じられ頼りにされる、日本一の職人集団を目指し、企業の発展と社員の幸福をバランスよく実現させる」というものがありますが、「ほめられたい」の一言にまとめて分かりやすく伝えています。全員が「ほめられたい」という思いで仕事をしていれば、自然とモチベーションは向上し、企業は潰れません。お客様から信頼されることで社員が成長し、企業が発展していくと肌身で実感しています。
--実際に、若い方へ企業の想いを分かりやすく伝えるための方法として実践していることはありますでしょうか。
以前は伝わりづらいこともありましたが、昨年の第三工場新設を機にDXを意識し始め、iPadを社員全員に配布して企業の情報を即時共有できる仕組みを作りました。その一環として、経営理念・経営方針は電子化し、iPadからいつでも最新版を閲覧可能です。
この仕組みは、いわゆる「現場の声」の展開にも効果を発揮しています。マニュアル・ノウハウは写真や動画を通して伝えられるようになり、「こういう風にしよう」といった新しい発見もタイムリーに展開される文化が生まれつつあります。
▲株式会社ひびき精機 松山社長
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挑戦し続けるひびき精機が目指すものとは
--航空宇宙産業について、やまぐち空中発射プロジェクトなど面白い試みをされていますが、参入されたきっかけや想いについて教えてください。
シリコンサイクルの影響で半導体産業の景気が不安定であった8年前に、航空宇宙産業へ参入しました。航空宇宙産業は、材料がステンレス・アルミ・チタンと半導体産業の部品に使われるものを多く扱っています。また、数量的にも1〜100個などのスケールで、高付加価値のものが求められるという共通点から、航空宇宙産業に乗り出すのが良いと判断しました。航空宇宙産業はこれからどんどんと進んでいく分野ですので、我々が高い技術力を維持し発展し続ければ、お客様からより大事にされる企業になっていくと考えています。
また、航空宇宙産業に参入したことは、採用面でもメリットがありました。採用面接では、宇宙関係の仕事をやってみたいと志望動機を掲げた人も多く、航空宇宙をやっていると広告塔にもなるのだなと気付かされました。
ウィズコロナで、社員の健康を守るための取り組み
--投資をたくさんされていることに関連して、工場のデジタル化への想いはどういったものがあるのでしょうか?
例えば、薄いステンレスなどでは、加工機械で削る時に熱が出て変形してしまいます。そこで、人間の感覚を駆使して、変形が最小となるように様々な工夫をしています。こういった作業工程のうち20%はベテランにしかできない、どうしても人間の感覚が必要な工程で、この工程こそが高付加価値を産む部分です。一方で、ICTやIoTは、残り80%の作業を経験の浅い人たちでもできるようにするサポートツールと捉えています。私たちがIT・デジタル技術を取り入れ始めたのは、職人の技術承継を進めたかったことが理由ですが、自動化に頼りきってしまうと職人は育たず、企業としての存在価値も低下していくことでしょう。「良い人財」と「良い機械」があれば「良いもの」を作ることができる。さらに「良いシステム」による相乗効果を狙い、システムとデジタル人財の育成に投資を続けています。こうした考えのもと、技術・技能を伝承していくことで、山口県下関から世界に向けて我々の存在を発信していこうと考えています。
--このような取り組みはグッドカンパニー大賞や地域元気プログラム、山口健康経営優良認定企業などに参加/認定されたこととも関係しているのでしょうか?
こうした取り組みが評価されて、結果的に認定されているのかと思います。私は普段から「健康な社員がいるから企業が発展する」と考えており、行政の方などがこういったプログラムを紹介してくれたタイミングで、社員に働きかけ、結果的に賞をいただけています。
DXについても、数年前までは「DXって何?」というレベルでしたが、県からのお誘いもあって去年からNTT西日本さんと共同で、ローカル5G技術に関する検証実験を一緒にやっています。コロナ渦中にある現在、取り組めることは限定的ではありますが、感染対策をしながら設備投資や機材テストなどを進めています。
参考:ローカル5Gを活用したスマートグラス、4Kカメラによるリモート作業支援の共同検証開始について
--コロナ禍でチャレンジを続ける他の経営者の方へ向けてエールをお願いします。
私たちも将来を考えて、新規開拓に行きたいところですが、こうした状況で東京のお客様のところに行くのは難しい状況ですので、今はもう少し辛抱し、地道に頑張るしかありません。ただ、そうした中でも我々経営者は「もっと笑っていこうよ」と思っています。最近は、「笑顔度センサ『スマイルスキャン』」というツールを会社の入口に置いて、笑う練習をしています。こういう時こそ笑顔で、心も身体も健康でいられたら道は開けると思うのです。若い人は照れくさくて難しいでしょうね。私が苦しいときでも無理して笑うようになったのは45歳を過ぎた頃からです。みんなも苦しい中、リーダーの自分が苦しい顔をしていてはいけないなと思っています。若くしてこう思えたら、人生は拓けるでしょう。社員には心身共に健康でいてほしいと願い、「社員のコンディション見える化ツール『ソムリエツール』」等も導入しています。
--社長の笑顔が社員から慕われるポイントですね。
私はどんな若い人たちにも寄り添っていきたい。古い考えかもしれませんが、一度入社してもらうと、その人の一生を背負う覚悟でいます。中にはやりたいことを見つけて辞めていく人もいますが、たまに街で会うと「社長元気ですか?」と声をかけてくれるので嬉しいです。辞めた社員ともマラソン大会に一緒に出場するなど、交流を続けています。また機会があればまたうちの会社に戻ってきてくれないかなと思っています。
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まとめ
今回は、株式会社ひびき精機の松山氏にインタビューさせていただきました。インタビューで伺った、「みんなも苦しい中、リーダーの自分が苦しい顔をしていてはいけないな」「一度入社してもらうと、その人の一生を背負う覚悟でいる」といった松山氏の言葉がとても印象的でした。従業員を大切にしながら、コロナに負けずチャレンジを続けられる秘訣が、この言葉に詰まっていることでしょう。