職場での通称使用、どうしていますか?ルール作りで注意すべきポイントとは

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公開日:2021.7.19

通称使用とは、社会的な場において、既婚者が便宜上旧姓を使用することを指します。通称使用を認める企業は多く、通称使用は一般化しつつあるといっても過言ではないでしょう。しかし、通称使用によって業務に支障をきたさないようにするためには、社内の手続きやルールの作成などの対応が必要です。今回は通称使用の意義や背景、企業のデメリット、社内ルール作成の注意点について解説します。

通称使用を認める企業は増えている

通称使用はなぜ望まれているのか

  • 姓を変更することで生じる仕事上の不利益
    婚姻前に構築した職場の人間関係や、取引相手との関係性における自分自身は、すべて旧姓で認識されていることになります。このように、すでに確立された周囲の認識を、ある日突然変更するのは、自分にとっても相手にとっても不便を感じることになるでしょう。新しい名前で周囲に馴染んでもらうまでには時間がかかるため、業務がスムーズにできなくなる場面も少なくありません。
  • アイデンティティーの喪失
    名前は、「自分」という存在を表す言葉として、深層心理に深く根付いているものです。婚姻などで姓が変わってしまうことは、一部の人にとってはアイデンティティーの喪失を意味し、深く傷ついてしまう人もいるようです。また、名前を変えなければならないという事実に対し、権力から強制されたものであるように感じる人も少なくありません。
  • プライベート情報の公開の防止
    姓の変更がきっかけとなり、プライベートでの出来事が注目されることがあります。婚姻などのおめでたい出来事でも、社内で広く知られることに抵抗を感じる人は少なくありません。また、離婚や、その他戸籍の異動など、姓の変更はセンシティブな話題を含む場合もあるため、プライベート情報の公開を必要最小限に抑えるためにも、通称使用を希望する人は増加しています。

通称使用に関する政府の方針

  • 夫婦同姓に関する方針
    日本において古くから受け継がれてきた「夫婦は同姓であるべき」という方針は、現在も変わっていません。夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗ることのできる選択的夫婦別氏制度の導入も検討されていますが、実現には至っていません。伝統的な夫婦同姓は、家族の一体感を保つために必要であるという考え方が、いまだ強く残っているのです。
  • 最高裁の判断
    このようななかでも、夫婦別姓を求める声は強く、2015年には最高裁判所でも争われています。原告側は、夫婦別姓は女性への間接差別に該当し、法の下の平等を定めた憲法に違反すると主張し、国に損害賠償を求めました。しかし、最高裁でも原告の訴えは認められず、夫婦同姓は合憲と判決が下されています。判決のなかで、「職場などにおいて通称使用が浸透してきているため、夫婦同姓による不利益は緩和されている」と通称使用への言及がされたことからも、今後通称使用は一般化していくことが考えられます。
  • 政府の通称使用に関する取り組み
    政府は夫婦同姓の姿勢を崩してはいないものの、旧姓を社会の様々な場面で使えるようにするための取り組みが進められています。例えば2019年からは住民票、マイナンバーカード、運転免許で、2021年4月1日からはパスポートでも旧姓を併記することが認められるようになりました。今後は、姓の記載部分にカッコ書きで旧姓を加えることで、旧姓を失うという感覚が少しでも薄まることが期待されています。

通称使用で解決できない問題

上記の最高裁における判決文のなかにもあるように、通称使用の広まりによって、姓が変更されることによる、日常的な不便は軽減されたといえるでしょう。しかし、通称使用だけでは解決が難しい問題もあります。例えば、税金や社会保険、年金など、公的な手続きに関しては、通称ではなく戸籍名の使用が必要とされています。通称が浸透すればするだけ、このような公的な手続きのたびに混乱や手間が生じてしまうのは、今後解決していかなければならない課題でしょう。
また、婚姻によって姓を変更するのは女性が圧倒的に多いため、姓が継承できないために女性が事業継承者の対象者となれなかったり、婚姻を諦めたりするパターンがあるなど、実際に問題を抱えている人がいることにも目を向けなければなりません。

  

職場における通称使用

職場における通称使用の導入状況

内閣府男女共同参画局が打ち出した2016年の発表によると、通称使用を認めている企業は、49.2%と全体の約半数です。企業規模別でみた場合、1,000 人以上の企業における通称使用を認めている割合は74.6%と高い水準にあり、事業規模が小さくなるにつれて通称使用を認める割合も低下します。通称使用を認めていない理由としては、「通称使用の要望がない」や「社内で通称使用について検討したことがない」といった意見が多く、通称使用の希望者がいれば前向きに対応したいと考える企業が多いようです。また、業種別でみた場合、情報通信業が76.9%と最も高く、通称使用の導入に積極的であることがわかります。

通称使用のメリット

  • 慣れない姓でのコミュニケーション削減
    社内の同僚や取引先は、旧姓に慣れているため、婚姻して姓が変わると、浸透するまでには時間がかかります。通称使用の場合、従来と変わらない呼び方で良いため、新姓を覚えてもらうための連絡などの手間も必要ありません。
  • 名刺やメールアドレスの変更コスト削減
    業務上でも姓を変えようとした場合、社内で多くの変更手続きをしなくてはなりません。業務で使用する名刺やメールアドレスの変更も、戸籍名に統一しなければならないでしょう。通称使用であれば、このような変更が必要ないため、余計な事務処理を行わなくて済みます。

通称使用のデメリット

  • 旧姓と通称の判別の難しさ
    公的書類では戸籍名が用いられるため、社内で扱う社会保険や年金、税金の書類では、通称を使用することはできません。例えば、通称が浸透しているせいで、源泉徴収票などの書類を誰に渡せば良いかわからなくなってしまう例は多いようです。また、外部からの電話にて新姓で呼び出されると、旧姓に慣れている職場の方は少し混乱するかもしれません。
  • 管理上の負担
    上述の通り、経理や人事の担当者は通称と戸籍名の両方を把握し、管理しなければならないため、管理上の負担は増加することが考えられます。

  

通称使用に関連する社内ルール作成の注意点

通称使用が認められるケースを決める

広義での通称使用における「通称」とは、婚姻前の旧姓だけでなく、「戸籍上の本名と異なるが日常生活で使用しており、世間一般にも通用している氏名」も指します。そのため、通称使用を認めるにあたって、しっかりと定義付けておかないと、思わぬトラブルが発生しかねません。通称使用を認めるのは、婚姻によって戸籍名が変更された場合のみ、などと定めるなど、適用条件を明確にすると良いでしょう。

通称使用の手続き方法を定める

通称を使用したい従業員が困らないように、手続き方法を定めましょう。具体的には、申請窓口や必要な書類などが周知されているとスムーズに運用できます。また、改姓の事実発生後1ヶ月以内の手続きが必要であるなど、通称使用申請の受付期間についても定めておくことをお勧めします。

旧姓と戸籍名の使い分けを明確にする

通称使用を認めても、すべての仕事の場面で旧姓を使用できるわけではありません。一般的には名刺・メールアドレス・社内資料などには旧姓が使用できても、賃金台帳・源泉徴収票・社会保険の手続きなどには戸籍名が使用されます。企業によって、戸籍名を使うか旧姓を使うかで判断が分かれる代表的な書類には、以下のようなものが挙げられます。

  • 従業員名簿
  • 身分証明書
  • 出勤簿
  • 住所録
  • 給与明細

上記のほか、名前が関係する書類などのリストを作成し、旧姓と戸籍名どちらを使用すべきか基準を明確にしましょう。

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まとめ

通称使用には、さまざまな目的があるものの、通称使用によって業務上の不便が軽減される場合は、積極的に取り入れていくべきでしょう。夫婦同姓と別姓、双方にさまざまな考え方や想い、メリットやデメリットがあります。企業にできることは、可能な範囲で選択肢を増やしていき、「選べる社会」を実現させていくことではないでしょうか。

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