少子高齢化が急速に進展する中、高年齢者の就労促進を図るため、各企業には高年齢者の雇用確保措置が義務づけられています。
職場において高年齢者を活用することは、企業にとっても生産性の向上や勤務負担の軽減等のメリットがあり、積極的に取り組んでいくことが必要です。
今回は、高年齢者雇用の現状や、職場において高年齢者を活用するにあたってのポイントを紹介します。
目次
高年齢者の雇用確保措置義務について
少子高齢化が急速に進展する現代社会においては、高年齢者をはじめ、働くことができる人すべての就労促進を図り、全員参加型社会を実現することが必要不可欠です。このような状況を踏まえ、高年齢者がその意欲と能力に応じて働くことができる環境の整備を図るため、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」により、各企業には「高年齢者雇用確保措置」が義務づけられています。
高年齢者雇用確保措置は、高年齢者を65歳まで安定して雇用することを目的としており、その具体的な内容は以下のとおりです。
(1)定年を定める場合には、60歳を下回ることはできないこと
(2)65歳未満の定年を定めている場合は、65歳までの雇用を確保するために、①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、のいずれかの措置を取らなければならないこと
企業がこれらの高年齢者雇用確保措置義務に違反している場合、厚生労働大臣による指導・助言や勧告を受ける可能性があります。また、厚生労働大臣の勧告を受けたにもかかわらず、これに従わない場合は、企業名が公表される可能性もあります。
高年齢者雇用の現状
厚生労働省が2016年10月に公表した「高年齢者の雇用状況」によると、従業員31人以上の企業約15万社のうち、高年齢者雇用確保措置の実施済企業の割合は99.5%となっており、
高年齢者雇用安定法に基づく65歳までの雇用確保措置義務については、ほとんどの企業が果たしていることが分かります。
一方で、65歳以上の高年齢者の就労ニーズが高まっていることから、65歳という法の義務を超え、年齢にかかわりなく働き続けることができる環境の実現が求められています。
内閣府の行った意識調査では、60歳以上の高年齢者に何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいかを聞いたところ、「働けるうちはいつまでも」が28.9%と最も多く、次いで「65歳くらいまで」「70歳くらいまで」がともに16.6%という結果になりました。
また、総務省の調査では、65〜69歳の男性の49.0%が就業しており、65~69歳の不就業者の男性(51.0%)のうち2割以上の人が就業を希望しているという状況が明らかとなっています。
このことから、65歳までの雇用確保を基盤としながらも、高年齢者雇用安定法の義務を超え、年齢にかかわりなく働き続けることを可能としていく必要があるといえます。
高年齢者を活用するにあたってのポイント
高年齢者には、長年の職業生活で培ってきた知識や経験があるので、これらの強みを十分に活かしながら働いてもらうことが大切です。職場において高年齢者を活用するにあたっては、以下のようなポイントに配慮するとよいでしょう。
フォロー体制の構築
高年齢者を活用するにあたっては、高年齢者を常にフォローできる体制を構築することが重要です。高年齢者はパソコンの操作などに不安があることも多く、いつでもフォローしてもらえるという安心感は、高年齢者の勤務意欲向上につながります。
また、実際に高年齢者が作業するにあたって間違えやすい部分などを盛り込んだマニュアルを作成することで、作業効率の向上につなげることもできます。
多様な働き方ニーズへの対応
労働時間や勤務日数など、高年齢者の働き方に対するニーズは様々です。これらのニーズに対応できるよう、柔軟な制度設計をしていくことが必要となります。
必要に応じて、ワークシェアリングや短時間勤務、テレワークなどを活用していくことも有効だといえるでしょう。
肉体的変化への考慮
高年齢者は、加齢に伴って視力・聴力の低下や筋力の低下などの肉体的変化が生じます。どのような肉体的変化が生じるのかをきちんと理解したうえで、これらに配慮して作業環境を整えていくことや、任せる仕事を決定していくことが必要です。
高年齢者が働きやすい作業環境を整えていくことは、高年齢者以外の従業員にとっても有効であり、作業効率の向上につながります。
企業における高年齢者の活用事例
仏壇・仏具等の小売販売を行うある企業では、平常時は1日4時間の短時間勤務、繁忙期は1日8時間のフルタイム勤務と、業務量の変動にフレキシブルに対応させて高年齢者を活用する「高年齢者スポット勤務」を実施しています。
この企業では、高年齢者スポット勤務の取組により、平常時に他の従業員が休憩時間を確保できるようになるとともに、繁忙期の増員ニーズに対応できるようになりました。
また、高年齢者は年配の顧客に寄り添った接客を提供できることから、顧客の安心感や信頼感を得ることができ、顧客の満足度向上という成果も得られたといいます。
このように高年齢者を活用することで、高年齢者の就労ニーズを満たすことはもとより、企業や他の従業員にとっても大きなメリットが得られます。
高年齢者を雇用する企業への支援策
高年齢者を積極的に雇用する企業に対して、厚生労働省では助成金を支給しています。高年齢者の活用を考えている企業においては、ぜひチェックしてみるとよいでしょう。
特定就職困難者雇用開発助成金
60歳以上65歳未満の高年齢者等の就職困難者を、ハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して助成されます。
高年齢者雇用開発特別奨励金
雇入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワーク等の紹介により、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者として1年以上継続して雇い入れる事業主に対して助成されます。
65歳超雇用推進助成金
労働協約や就業規則により、65歳以上への定年の引き上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかを導入した事業主に対して助成されます。
それぞれの詳細な受給条件や受給額などは、厚生労働省のページに記載されているので参考にしてください。これらの助成金等を活用しながら、積極的に高年齢者の活用を進めるようにしましょう。
まとめ
労働力人口が減少していく局面において、働く意欲のある高年齢者を活用していくことは必要不可欠です。高年齢者の活用は、企業にとってもメリットがあります。高年齢者が働きやすい職場環境を整え、積極的に高年齢者を活用していくようにしましょう。
なお、高年齢者雇用に係る制度改正として、2017年1月から雇用保険の適用範囲が拡大し、65歳以上も雇用保険の対象となりますので、こちらも確認してください。
・【2017年1月~】雇用保険の適用範囲が拡大します―65歳以上の労働者も雇用保険の適用対象となります―