労働者災害補償保険法が改正!労災保険給付等の変更点まとめ

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公開日:2021.7.20

労働者災害補償保険法とは、労働者が通勤途中に負った傷病や、業務に起因する災害に遭った際に補償される制度です。労働者補償保険法の改正により、2020年から複数の勤務先を持つ労働者の労災保険給付や評価方法が変更されているため注意が必要です。今回は労働者災害補償保険法の内容や給付の種類、現行法と今回の改正後の相違点、給付請求時の注意点について解説します。

労働者災害補償保険法とは

労働者災害補償保険法の役割

労災保険では、業務や通勤が原因となり、負傷・疾病・障害・死亡などが生じた労働者に対して、必要な保険給付を行うことで、治療にかかる費用や働けない間の生活費を補償します。労災保険給付の意義は、ケガや病気によって働けない労働者の社会復帰を促進したり、労働者本人や、労働者が死亡した際はその遺族の生活を補償したりすることだけではありません。保険給付によって本来企業が支払うべき多額の損害賠償金が肩代わりされるため、企業の倒産を防ぐことも大切な役割の一つです。
どのような業種であるかに関わらず、労働災害を完全に防ぎきることは困難です。企業の発展と、労働者が安心して働ける環境を維持するためにも、労災保険は重要なものといえるでしょう。

労災保険給付の種類

労災保険法には、8種類の労災保険給付が設けられています。

  • 療養補償給付
    通勤や業務内容に起因して負傷したり、疾病にかかったりした場合に、労災病院や労災指定病院にて無料で治療を受けられる現物給付です。
  • 休業補償給付
    通勤や業務内容に起因した負傷・疾病が原因で、働くことが困難になり、かつ収入を得られない場合に、その第4日目から受け取ることができます。
  • 障害補償給付
    通勤や業務内容に起因した負傷・疾病が完治した後、身体に障害が残った場合に支払われます。
  • 遺族補償給付
    通勤や業務内容に起因した死亡事故が発生した際、労働者の遺族に支払われます。
  • 葬祭料
    労働者が、通勤中や業務内容に起因して死亡した場合、葬祭を行う人に葬祭料が支払われます。
  • 傷病補償年金
    療養補償給付を受ける労働者の傷病が、療養開始後1年6ヶ月を経過しても治らず、傷病等級に該当した場合、その状態が継続している期間支払われます。
  • 介護補償給付
    傷病補償年金または障害補償年金を受給していて、一定の障害の状態にあり、現に介護を受けている場合に月単位で支払われます。
  • 二次健康診断等給付
    直近の一次健康診断の結果、血圧・血中糖質・血糖・肥満度のすべての検査に異常が認められ、脳・心臓疾患の症状がないと認められる労働者に対し、精度の高い二次健康診断と保険指導を提供します。

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労働者災害補償保険法の改正

改正労災保険法では、施行日である2020年9月1日以降に、傷病や疾病が生じた労働者と、死亡した労働者の遺族が対象となります。

労働者災害補償保険法が改正される背景

近年では、パートやアルバイトの掛け持ちなど、一つの勤務先だけに縛られない、多様な働き方をする人が増加しています。また、企業の業績不振により、副業をせざるを得なくなった労働者も少なくないでしょう。
これまでの労災保険法では、労災事故の認定は、一つの勤務先でのみ行われてきました。しかし、上記のような状況を鑑みて、労災事故の認定についても、複数の勤務先における総労働時間や、総合的なストレス負荷を判断する必要性があることが指摘されていました。これまでは例外的な扱いであった「複数事業労働者」が一般的になったことで、新たな仕組み作りが必要になったのです。

保険給付額等の決定方法

改正前は、保険給付のもととなる給付基礎日額については、事故が起きた勤務先の賃金額のみをもとに算出していましたが、改正後は、すべての勤務先の賃金を合計した額をもとに算出されるようになります。

仕事の負荷の評価方法

これまでは、労働時間やストレスなどの業務に起因する負荷を、勤務先ごとに個別で評価していました。そのため、それぞれの勤務先の労働状況を判断した結果、労災事故と認定されない場合がありました。このように、勤務先ごとの個別評価で労災認定できない場合、すべての勤務先の労働時間やストレス負荷などを総合的に評価して労災認定できるようにしたのが今回の改正です。対象となる疾病は脳・心臓疾患や精神障害などです。

覚えておきたい留意点

今回の改正には、経過措置が設けられているため、改正労災保険法の施行日の2020年9月1日以後に発生した傷病のみが対象です。従って、2020年8月31日以前に発生した傷病については、改正前の制度が適用されます。
また、労災保険には、各事業所の業務災害の多さ・少なさに応じて労災保険率や保険料を増減させるメリット制が設けられています。今回の制度改正においてメリット制に影響はなく、これまで通り、労働災害が発生した事業場における保険給付額のみがメリット制に影響することを覚えておきましょう。

  

労災保険給付の請求で注意すべきポイント

制度改正に伴い各種様式が変更されているので、提出時に不備がないように注意しましょう。

「その他就業先の有無」欄に必要事項を記入する

複数の勤務先がある場合、「その他就業先の有無」欄に以下の項目を適切に記入する必要があります。未記入の場合は複数事業労働者とみなされないため、注意してください。

  • 複数就業先の有無
  • 複数就業先の事業場数
  • 労働保険番号(特別加入)
  • 特別加入の加入状況

別紙に複数就業先の賃金額などを記入する

複数の勤務先がある場合、勤務先ごとに別紙を記入し、事業所の証明を受けたうえで、労災保険給付の請求時に提出します。別紙の提出が必要となる場合は以下のとおりです。

  • 休業(補償)等給付
  • 障害(補償)等給付
  • 遺族(補償)等給付
  • 葬祭料等(葬祭給付)

複数業務要因災害と業務災害の請求書は兼用

「複数業務要因災害」として労災認定されるのは、一つの事業場において「業務災害」として認定されない場合に限ります。従って、「業務災害・複数業務要因災害用」として、保険給付の請求書を兼用することになります。なお、疾病に関する申請の場合、脳・心臓疾患、精神障害およびその他2以上の業務を要因とする疾病以外の請求ができるのは、一つの事業場における「業務災害」のみです。
また、「業務災害」と「複数業務要因災害」の保険給付請求は同時に行うことが可能です。ただし、支給される保険給付はいずれかのみである点と、業務災害として労災認定される場合は、業務災害が優先される点には十分注意しましょう。

申請書の提出先は各勤務先を管轄するいずれかの労働基準監督署

複数業務要因災害に係る労災保険給付の請求であっても、いずれか一つの勤務先の管轄労働基準監督署に提出すれば問題ありません。複数の勤務先の管轄労働基準監督署すべてに対し請求書を提出する必要はないことを覚えておきましょう。

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まとめ

今回の改正をきっかけに、企業は、自社における労働者の働き方を把握するのはもちろんのこと、その労働者がほかに勤務先を持っていないか、またその勤務先における労働条件がどのようなものか、しっかり把握しなければならなくなったといえます。
副業は、収入アップだけでなく、スキルアップや人脈形成の機会にもなります。企業の負担が増えるからといって安易に副業を禁止するのではなく、自社の魅力や労働条件の向上に努め、少なくとも労災事故に発展するような「働きすぎ」を防止できる社会を作りましょう。

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