災害リスクに応じて労災保険料が変わるメリット制とは?

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公開日:2020.7.13

労働災害が生じるリスクは、同じ事業であっても作業環境や設備によって変化します。事業主の労災保険料の負担を公平にする制度には、労働災害のリスクによって労災保険率または労災保険料額を増額させるメリット制があります。今回は、メリット制の定義と継続事業・一括有期事業・単独有期事業のそれぞれにおける適用方法、特例メリット制の内容について解説していきます。

メリット制の概要

メリット制とは

労災保険料は、基本的には賃金の総額に労災保険率を掛けることで算出されます。「メリット制」はその時に用いる労働保険率を決定するための仕組みです。一定規模の事業を行う会社に対しては、業種ごとに定められた労災保険率にメリット制を適用することで実際に適用される労災保険率が決定します。メリット制により業務中の事故が少ない会社は労災保険料が低くなり、多い会社は労災保険料が高くなります。なお、メリット制は事業場ごとに適用されます。

メリット制の目的

メリット制の目的は労働保険料の決定に個別の事業ごとの事情を反映させることです。事故防止のための努力を労働保険料に反映させることで、企業間の公平性を確保しより一層の努力を促します。

業種別の保険料率と非業務災害率

業種別の保険率はメリット制を適用する元となる保険率で、厚生労働省のウェブページなどで公開されています。現行の業種別の保険率は、例えば林業60/1,000、食品製造業6/1,000のように1,000分率で定められています。また、通勤災害などに対する保険料を計算するための「非業務災害率」は、全業種一律に0.6/1,000と定められています。

メリット料率の適用時期

メリット制は労災を防ぐ努力を保険料に反映させる仕組みなので、一定期間に起きた労働災害を次の期間の労働保険率に反映させなければなりません。メリット制には後述する3つの種類がありますが、多くの企業が適用対象となる「継続事業」では、連続する3年間の労災の状況が2年後の労災保険料に反映されます。例えば2020年度から2022年度までの労働災害の状況は、2024年度の労災保険料に反映されることになります。

メリット料率の計算方法

メリット制が適用された労災保険料率のことを「メリット料率」と呼びます。メリット料率の正確な計算方法は複雑なので、ここでは概要を解説します。
最初に「メリット収支率」というパーセント数値を計算します。これは期間中の保険給付を、支払った保険料で割った比率をパーセントで表したものです。なお、一口に「保険給付」「保険料」といっても、現実にはメリット制の趣旨に合わせて複雑な計算が必要となります。
次にメリット収支率を法的に定められた「増減表」で換算することで、「メリット増減率」を算出します。一般的な場合では、メリット収支率が小さい(労働災害が少ない)場合から、メリット収支率が大きい(労働災害が多い)場合まで、メリット増減率は-40%~+40%の範囲で定まります。
最後に実際に適用される労働保険率であるメリット料率が計算されます。メリット料率は、労働保険率から非業務保険率を引いたものにメリット増減率を掛けたものを、業種別の労働保険率に加えて算出します。メリット増減率が-40%の場合には労働保険料が業種別の保険料から40%近く減額され、逆に増減率が+40%の場合には40%近く増額されることになります。

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事業ごとのメリット制

継続事業のメリット制

継続事業は事業期間が設定されていない事業のことです。通常の事業はほとんどが継続事業に該当します。

  • 労災保険に加入してから3年以上たっていること(事業の継続性)
  • 100人以上を雇用しているか、20人以上100人未満を雇用していて、「災害度係数」が0.4以上であること(事業の規模)」

雇用している人数は3年間を平均した人数です。また、「災害度係数」は雇用している人数に、業種ごとの労働保険率から非業務災害率を引いたものを掛けた値です。この条件により、100人未満でも業種の危険度が高く人数が多い場合にはメリット制が適用されます。

一括有期事業のメリット制

一括有期事業とは、建設事業や立木の伐採事業において、複数の工事や伐採を年間で受注し全体を一つの事業とみて労災保険を適用するものです。
この場合の適用条件も2つあります。「事業の継続性」の要件は継続事業の場合と同じです。一括有期事業のメリット制の「事業の規模」の条件は、「3年間の各年度の保険料が40万円以上」であることとされています。多くの場合、継続事業と同じ-40%~40%の増減表が適用されますが、事業の種類や規模によっては、増減幅がより小さい増減表が適用されます。

単独有期事業のメリット制

単独有期事業とは、事業の開始と終了が予定されている大規模な工事などを1つの事業として労災保険を適用するものです。ビルやトンネル工事などには単独有期事業のメリット制が適用される場合が多いです。
単独有期事業の場合、継続事業や一括有期事業のような3年間の期間というものはありません。単独有期事業のメリット制は、事業終了前に一度保険料を確定・清算しておき、事業終了後にメリット制を適用して増減します。
単独有期事業のメリット制は「確定保険料の額が40万円以上」であるか、「建設事業では請負金額が1億1千万円以上、立木の伐採事業では素材の生産量が1,000立方メートル以上」の場合に適用されます。
単独有期事業のメリット制でも、メリット収支率と増減表を使ってメリット料率を計算します。メリット収支率を計算する期間は、通常事業開始から事業終了の3か月後となりますが、それまでに保険給付が終わらない被災者がいる場合は、事業開始から事業終了の9か月後となります。

 

特例メリット制

特例メリット制とは

「特例メリット制」とは、安全衛生処置を講じた中小企業が申告することで、メリット増減率が-45%~45%になる制度です。メリット収支率が5%以下の場合、メリット増減率が45%減少します。

特例メリット制の要件と手続

特例メリット制の適用を受けるためには以下の4つの条件を満たす必要があります。

  • メリット制の適用を受けた継続事業である
  • 中小事業主である
  • 厚生労働省令で定められた安全または衛生を確保するための措置(安全衛生措置)を講じた
  • 措置を講じた年度の次の年度の4月1日から9月30日までの間に申告している

手続きとしては、厚生労働省が定めるPDCAサイクルである「労働安全衛生マネジメントシステム」を実施し都道府県の労働局から確認を受けてから、上記の期間中に労働局に申請書を提出します。

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まとめ

労働災害を減らす努力をすれば、メリット制により労働保険料を少なくすることができます。中小企業の場合、安全衛生措置を行い申請すれば、労働保険料をさらに少なくすることも可能です。これを機に職場の安全対策の取り組みを再検討してみてはいかがでしょうか。

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