雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?詳しく解説します

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公開日:2022.2.7

2022年1月より雇用保険マルチジョブホルダー制度が新設されます。この制度は、複数の企業で勤務する65歳以上の従業員が特定の要件を満たす場合、特例的に雇用保険に加入できる制度です。今回は雇用保険マルチジョブホルダー制度の適応要件、手続きの流れ、失業した場合の給付、注意点について解説していきます。

雇用保険マルチジョブホルダー制度が新設される

雇用保険マルチジョブホルダー制度とは

雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の企業で勤務する65歳以上の従業員が、そのうち2つの企業での勤務において後述する特定の要件を満たす場合に、申出を行った日から特例的に雇用保険に加入できる制度です。従来の雇用保険制度では、主とする企業における週所定労働時間20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがあることなどの加入要件を満たす必要がありました。マルチジョブホルダー制度の新設によって、被保険者資格の対象範囲が拡大したといえるでしょう。現代社会における多様な働き方に対応し、高年齢者の失業への備えを固めるという意味合いでも、重要な制度です。なお、雇用保険マルチジョブホルダー制度によって特例的に雇用保険の被保険者となる方は、「マルチ高年齢被保険者」と称されます。

適用対象者

雇用保険マルチジョブホルダー制度が適用されるには、従業員が以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 複数の企業に雇用される65歳以上の従業員であること
  • 2つの企業の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(※ただし、1つの企業における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満であること)
  • 2つの企業それぞれの雇用見込みが31日以上であること

なお、加入後は、通常の雇用保険と同様に任意脱退はできません。また、雇用保険に加入後に別の企業で雇用された場合も、上記の要件を満たさなくなった場合を除いて加入する企業の切り替えも行えないので注意しましょう。

失業した場合の給付

マルチ高年齢被保険者が失業した場合、高年齢求職者給付金を一時金で受給できます。ただし、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上あることなどの要件をクリアしなければなりません。
高年齢求職者給付金の給付額は、以下の方法で求められます。

  • 賃金日額の計算

離職の日以前の6ヶ月に支払われた賃金の合計を180で割って求めます。

  • 基本手当日額の計算

算出した賃金日額が2,574円以上5,030円未満の場合、給付率は80%です。12,390円超13,700円以下の場合は、給付率は50%です。被保険者であった期間が1年以上なら50日分、1年未満なら30日分が、一括で支払われます。

雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用で必要な手続き

本人による手続きが必要

雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用を受けるためには、適用を希望する従業員が自身で手続を⾏います。一般的な雇用保険の場合、被保険者に関する手続は企業が⾏うため混同しないように気を付けましょう。申し込みを希望する従業員は、近くのハローワークや厚⽣労働省HPから以下の書類を入手します。

  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届(マルチ雇入届)
  • 個人番号登録・変更届
  • 被保険者資格取得時アンケート

2社分の書類に申出人記載事項を記入したら、それぞれの企業にマルチ雇入届の記入と後述する確認資料の交付を依頼しましょう。

必要な書類を揃えてハローワークに申し出る

適用を受ける2社から依頼した書類を受け取ったら、以下の書類を揃えて本人が住居所管轄のハローワークに提出しましょう。なお、郵送でも受け付けています。

  • 事業主から交付されたマルチ雇⼊届と確認資料(2社分)
  • 個人番号登録・変更届
  • 被保険者資格取得時アンケート
  • 本人確認資料と個⼈番号の確認できる資料

確認資料については以下のような書類が該当します。

  • 賃⾦台帳・出勤簿(原則、記載年月日の直近1ヶ月分)
  • 従業員名簿
  • 雇用契約書
  • 労働条件通知書・雇入通知書

役員や事業主と同居している場合など、別途確認資料が必要となるケースもあります。懸念点がある場合は、事前にハローワークなどに相談しておきましょう。

通知を受ける

ハローワークによる確認が完了すると、企業と従業員に対してそれぞれ郵送で通知が行われます。企業はハローワークより郵送される「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主通知用)」を保管しましょう。

従業員は以下6点の書類の保管が必要です。

  • 雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届(1:企業A、2:企業B)
  • 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(本人通知用)(3:企業A、4:企業B)
  • 雇用保険被保険者証(5)
  • 被保険者資格喪失時アンケート(6)

特に、1・2・5・6は離職した際にも使用するので、⼤切に保管しましょう。

雇用保険マルチジョブホルダー制度の手続きにおける注意点

企業の対応について

従業員から雇用保険マルチジョブホルダー制度の申し出を受けた場合、企業は必ず応じなければなりません。もし、申請時に事業主の協力が得られない場合は、ハローワークから確認が入る可能性もあります。また、申し出を受けたことを理由に、従業員に対して不当な取扱いを行ってはいけません。例えば、解雇・雇止め・労働条件の変更など、不利益な取扱いは法律で禁じられているので注意しましょう。

3つ以上の企業で働いている場合について

3つ以上の企業で勤務している場合は、申請者が雇用保険に加入する2つの企業を選択します。なお、3つ以上の企業で雇用されている被保険者が、1つの企業で離職しても加入条件を満たす場合は、雇用保険は継続されます。つまり、残る2つの企業で週の所定労働時間の合計が20時間以上となり、それぞれの企業における雇用見込みが31日以上であれば、資格喪失とはなりません。

資格喪失手続について

雇用保険マルチジョブホルダー制度における雇用保険の資格喪失手続は、本人である従業員が行わなくてはなりません。雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届を、離職などで被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内にハローワークに提出しましょう。企業は記載依頼を受けたら速やかに必要項目を記載し、確認資料と併せて従業員に渡してください。また、離職証明書の交付依頼があった場合も、速やかに作成しましょう。

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まとめ

少子高齢化によって生産年齢人口が減少するなか、高年齢者の活躍が期待されています。しかし、高年齢者が正社員として働き続けるケースは少なく、非正規社員として短時間の勤務をする場合は少なくありません。今回のマルチジョブホルダー制度は、短時間勤務の高年齢者に対して雇用保険加入の要件を緩和し、失業などへ備える目的があります。これまで雇用保険の加入対象でなかった人が雇用保険に加入できることで、安心して働き続ける一助となるでしょう。自社の従業員に対象者がいる場合は、雇用保険マルチジョブホルダー制度について周知しましょう。

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