健康保険法が改正!傷病手当金の計算方法を解説

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公開日:2022.2.3 最終更新日:2024.3.15

2022年1月に健康保険法が改正されました。改正の目玉となるのが、傷病手当金制度の見直しです。これまでは支給期限が定められていた傷病手当金ですが、不支給期間がある場合はその分延長して受けられるようになりました。療養と仕事を両立しながら、より長い期間所得保障が受けられるため、病気や怪我に悩む従業員も腰を据えて治療に向き合えるでしょう。この記事では、傷病手当金のポイント、改正内容、計算方法、既に受けている場合について解説していきます。

2022年1月から健康保険法が改正されました

健康保険法とは

健康保険法とは、従業員とその家族が病気や怪我に見舞われた際の医療給付や、病気や出産などで働けなくなった際の保険給付などについて定めた法律です。健康保険法の歴史は古く、1922年に公布されました。日本における公的医療保険制度の中核をなす法律であり、時代と共にその内容も改正されています。2022年1月の改正の対象となった傷病手当金制度は、健康保険法を根拠に制定された、病気で休業中の従業員と家族の生活を支えるための社会保険制度です。

健康保険法の改正内容

  • 傷病手当金の支給期間の変更
    これまで傷病手当金は、支給開始日から起算して1年6ヶ月の間支給されるものであり、1年6ヶ月を経過すると期間満了となっていました。2022年1月の改正後からは、同一の病気や怪我に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から「通算して」1年6ヶ月に達する日までになります。支給期間中に途中で就労するなど傷病手当金が支給されない期間がある場合は、支給開始日から起算して1年6ヶ月を超えても繰り越して支給されます。
  • 任意継続被保険者制度の変更
    任意継続被保険者制度とは、健康保険に加入していた者が退職し、その被保険者資格を喪失した場合であっても、要件を満たせば退職後最長2年間、引き続きそれまでの健康保険制度に加入できるというものです。2022年1月の改正前までは、任意継続被保険者が資格喪失するのは以下のような場合でした。
  1. 2年経過したとき(満了喪失)
  2. 死亡したとき
  3. 保険料未納のとき
  4. 再就職先で被保険者資格を取得したとき

つまり、任意継続被保険者が自らの意思で健康保険を脱退することはできませんでした。2022年1月の改正では、任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を保険者に申し出た場合には、その申出が受理された日の属する月の翌月1日に任意継続被保険者の資格を喪失できるようになりました。

また、任意継続被保険者の保険料をより実態に近い金額に設定するため、算定基礎についても見直されています。

改正の背景

2022年1月に改正された傷病手当金の支給期間については、精神疾患などで休職した場合、復帰と療養を繰り返すケースが多いことが背景となっています。支給残期間を気にせず、自分のできる範囲で職場復帰に挑戦できる環境は、病気と闘う人にとっての大きな励みとなるでしょう。
また、任意継続被保険者制度については、退職後も従前の健康保険に継続して加入できる点は大きなメリットです。しかし、企業負担分の保険料も被保険者が負担しなければならないことから、保険料が高額になりがちです。さらに、家族の扶養に入る場合などにも任意脱退ができなかったことで、使い勝手の悪さにつながっていました。2022年1月の改正では、これらの不足部分の解消を目指しています。

 
改正後の傷病手当金の考え方

傷病手当金の計算方法

  • 1日あたりの支給額は、以下の計算式から求められます。

支給開始日以前の継続した12ヶ月の各月の標準報酬月額を平均した金額÷30日×2/3

  • 傷病手当金の支給総額は以下の式で算出できます。

1日あたりの支給額×支払い期間=傷病手当金の支給総額

なお、支給開始日以前の被保険者期間が12ヶ月に満たない場合は次のA、Bを比べていずれか低い金額で算定しましょう。

A : 資格取得月から支給開始月までの各月の標準報酬月額を平均した額

B : 30万円

【計算例】

標準報酬月額が支給開始日前6ヶ月は40万円、それ以前の6ヶ月は35万円の時、有給を利用せずに土日を含めて連続6ヶ月間仕事を休み、その後は職場に復帰し6ヶ月勤務したものの、体調を崩して1年間休んだ方の支給総額を求めてみます。

  • 1日あたりの支給額
    (40万円×6ヶ月+35万円×6ヶ月)÷12ヶ月÷30日×2/3=8,333円
  • 支払い期間
    549日-3日間(待期期間)=546日間

健康保険法の改正で、支給開始日から通算して1年6ヶ月に達する日までが対象になりました。仕事を6ヶ月間休んでから6ヶ月間の復帰期間がありますが、その後の1年間も通算して支給されます。
よって、傷病手当金の支払い総額は次のように算出できます。

  • 8,333円×546日=4,549,818円

既に傷病手当金を受けている場合

支給開始した日が2020年7月1日以降であれば、改正後の考え方が適用されます。一方、支給を開始した日が2020年7月1日以前の場合は、改正前と同じように支給を開始した日から最長1年6ヵ月までの期間内が支給期間となります。傷病手当金の支給開始の日にちを良く確認して、どちらに該当するか確認しましょう。

 
傷病手当金が支給される条件

業務外での病気や怪我の療養のための休業であること

傷病手当金の支給対象となるのは、業務外での病気や怪我によって働けない場合です。業務上や通勤中の病気や怪我については、労災保険の給付対象に該当するので注意しましょう。健康保険給付の療養だけでなく自費で診療する場合であっても、仕事に就いていないと証明できる場合は支給対象になります。ただし、美容整形など病気に該当しないものは傷病手当金の支給対象外なので気をつけましょう。

仕事に就くことができないこと

仕事に就けていないことが傷病手当金の支給条件です。入院だけに限らず、通院しながらの自宅療養も仕事に就けない状態に含まれます。仕事に就けない状態の判定は、医師などの意見や、被保険者の業務内容も考慮して判断されます。自己判断や自己申告では、仕事に就くことができない状態と見なされないため注意しましょう。

連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと

傷病手当金は、病気や怪我の療養のために仕事に就けなかった日から連続して3日間経過した後、4日目以降に支給されます。この最初の3日間を待期期間と呼びます。有給休暇や土日・祝日などの公休日も含まれるため、給与の支払いの有無は関係ありません。また、就労時間中に病気や怪我が発生した場合、その日を待期の初日として扱います。

求職期間中に給与の支払いがないこと

傷病手当金は、病気や怪我で休業している期間の生活保障を目的とした制度です。そのため、給与が支払われている期間には支給されません。ただし、給与の支払いがあっても傷病手当金の支給額よりも少ない場合は、差額が支給されます。また、任意継続被保険者である期間中の病気や怪我に対しては支給されないので注意しましょう。

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まとめ

我が国の健康保険制度は、先進国と比較しても、高度な社会保障を実現しています。ただし、現行の社会保障は現役世代への給付が少なく、保証内容が高齢者向けに偏っていることが長年課題とされています。すべての世代に納得感のある社会保障制度を構築するため、健康保険法の内容も時代に則した改正が続くと見込まれます。多様化が進む社会に対し、広く保証を行き渡らせるための制度が求められているのです。
企業は、傷病手当金制度など健康保険法に関連する制度を正しく理解して、従業員の豊かな生活をサポートしていきましょう。

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