
育児・介護休業法が改正され、2025年4月より段階的に施行がスタートしました。現在、育児・介護休業の取得率は向上しつつあるものの、現役世代のニーズに合わせた、より柔軟性のある内容に変化させなければなりません。2022年4月の改正では、育児休業が取得しやすくなるように環境を整備することが義務付けられました。また2022年10月には、女性に比べて取得率の低い、男性の育児休暇取得を促進させる改正が行われました。それに加え、2023年の改正では育休取得状況の公表義務の拡大が行われました。さらに2025年には、男女ともに仕事と育児・介護の両立を実現すべく、柔軟な働き方の実現や介護離職防止に向けた環境整備など、さまざまな改正が行われました。今回は、具体的な改正の内容や改正のポイント、そして、企業が取るべき対応について解説します。
目次
育児・介護休業法について学ぼう
育児・介護休業法とは
「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」、通称「育児・介護休業法」は、仕事と家庭の両立を支援し、男女ともに育児・介護をしながら働き続けられる雇用環境を整備することを目的に制定されました。「就労」と「結婚・出産・子育て」、あるいは「就労」と「介護」の二者択一構造を解消し、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)を目指すため、企業が守らなければならない措置をまとめています。育児休業・介護休業の規定については、大まかに以下のように定められています。
- 育児のための支援制度
労働基準法で定める産後休業に引き続き、子が1歳に達するまでの間は、育児休業ができます。また、一定の場合は、子が1歳6か月、または2歳に達するまでの間の取得も可能です。そのほかにも、子の看護休暇、転勤への配慮などについて定めています。 - 介護のための支援制度
労働者がその要介護状態(負傷、疾病又は身体上、もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための休業について定めています。介護休業は、介護が必要な対象家族1人につき、通算93日まで取得できます。この休みは3回まで分割して取得可能です。そのほか介護休暇などについて定めています。 - 共通する支援制度
育児・介護する労働者が、無理なく働ける環境を構築するために、所定外・時間外労働の制限、深夜業務の制限、短時間勤務制度などを定めています。
育児・介護休業法が改正された背景
育児・介護休業法は、制定時より変わらない理念・目的のもと、時代の変化に即応するため重ねてきました。主に以下のような事項が、育児・介護休業法のキーワードとして掲げられています。
- 少子化対策
- 女性労働者が活躍できる職場づくり
- 高齢者の増加にともなう介護ニーズに対応できる社会づくり
- 育児・介護と就労の両立による、雇用継続・雇用の安定化
上記の項目は、育児・介護休業法の前身である「育児休業等に関する法律」の1991年における制定以来、少しずつ経済社会に浸透しています。しかし、休業取得の柔軟性や男性の育児・介護休業の取得状況にはいまだ課題があり、行政によるさらなるテコ入れが必要です。改正育児・介護休業法では、育児・介護休業がより取得しやすい労働環境の構築を目指した内容となっています。
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2022年4月の育児・介護休業法の改正のポイント
雇用環境整備などが義務化
企業に対し、休業の申出・取得をスムーズにするための雇用環境整備を義務化しました。また、妊娠・出産の申出をした従業員に対して、個別の制度の周知と休業の取得意向の確認を行わなければなりません。
妊娠出産の申し出をした従業員に対する個別の周知と意向確認措置
本人や配偶者の妊娠出産を申し出た従業員に対して、授業主は育児休業制度等に関する事項の周知と休業の取得以降の確認を個別に行わなければなりません。具体的に、企業は育児休業を希望する従業員に対して、育児休業・産後パパ育休に関する制度を説明しなければなりません。また、従業員が連絡するべき申し出先を周知する必要もあります。
有期雇用労働者の要件緩和
2022年4月の改正以前は有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得に関しては、「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件がありました。2022年4月の改正では、この要件が廃止され、極端なケースでは入社直後であっても育児休業が取得できるようになりました。ただし、労使協定を締結した場合は、雇用期間が1年未満の労働者を対象から除外できます。
2022年10月の育児・介護休業法の改正のポイント
出生時育休の創設
2022年10月の改正以前は、育児休業の取得は、子1人につき原則1回までしか取得できませんでした。男性については、子の出生後8週間以内に育児休業を取得した場合、再度育児休業を取得できる「パパ休暇」の制度がありますが、この制度を使っても3度目の育児休業は取得できません。
2022年10月の改正で創設された「出生時育休」は、子の出生後から8週間以内に、男性による4週間までの育児休業取得可能にします。なお、この休業は、2回まで分割して取得できます。この出生時育休によって、産後の最もサポートが必要な時期に柔軟な育児休業取得が可能になりました。
また、改正以前の制度では、育児休業の取得は、原則1ヶ月前までに申し出る必要がありましたが、2週間前までに申し出れば良いことになりました。加えて、労使協定を締結したうえで、休業中に就業することも可能です。
育児休業の分割取得が可能
前述の出生時育休を除く通常の育児休業についても、分割して2回まで取得することが可能になりました。
2023年4月の育児・介護休業法の改正ポイント
育児休業の取得状況公表の義務化
2023年4月の改正によって、従業員1000名を超える企業は、「男性従業員の育児休業取得率」または「育児休業・休暇の取得率」を年に1回公表しなければならなくなりました。
2025年4月から施行の育児・介護休業法の改正ポイント
子の看護休暇の見直し
子の看護休暇とは、子どもが病気やけがをした際など、子どもの看護が必要な場合に休暇を取得できる制度です。今回の改正では、対象となる子どもの範囲や取得事由などが拡大されました。
改正内容1. 対象範囲の拡大
対象となる子どもは従来「小学校就学の前まで」だったところ、今回の改正で「小学校3年生の修了まで」に拡大されました。
改正内容2. 取得事由の拡大
取得事由は従来「①病気・けが」「②予防接種・健康診断」と定められていたところ、今回の改正で「③感染症に伴う学級閉鎖等」「④入園(入学)式、卒園式」が追加されました。
改正内容3. 労使協定による除外規定の一部廃止
労使協定に定めることで除外できる労働者は従来「①週の所定労働日数が2日以下」「②継続雇用期間6か月未満」と定められていたところ、今回の改正で②が廃止されました。
改正内容4. 名称変更
取得事由が拡大されたことを受けて、名称が「子の看護等休暇」に変更されました。なお、改正の内容をふまえて就業規則等の見直しが必要です。
所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
幼い子どもを養育する労働者は、残業の免除を請求することが可能です。今回の改正では、請求できる労働者の範囲が「3歳未満の子どもを持つ労働者」から「小学校就学前の子どもを持つ労働者」に拡大されました。改正の内容をふまえて、就業規則等の見直しが必要です。
短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加
短時間勤務制度とは、仕事と育児・介護を両立する労働者の所定労働時間を短縮する制度です。短時間勤務が難しい場合は、労使協定を締結して除外規定を設けた上で、代替措置を講じることになります。代替措置は従来「①育児休業制度等に準ずる措置」「②始業時刻の変更等」と定められていたところ、今回の改正で「③テレワーク」が新たに追加されました。代替措置を選択する場合は、就業規則等の見直しが必要です。
育児のためのテレワーク導入
育児と並行してテレワークで仕事を継続できるよう、措置を講じることが事業主の努力義務となりました。措置を講じる場合は、あわせて就業規則等の見直しが必要です。
育児休業取得状況の公表義務適用拡大
一定規模以上の企業は年1回、育児休業取得状況の公表が義務付けられています。今回の改正では、公表義務が適用される企業の範囲が「従業員数1,000人超の企業」から「従業員数300人超の企業」に拡大されました。
介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
介護休業とは、病気やけがで2週間以上常時介護が必要な対象家族のいる労働者が休暇を取得できる制度です。労使協定に定めることで除外できる労働者は従来「①週の所定労働日数が2日以下」「②継続雇用期間6か月未満」と定められていたところ、今回の改正で②が廃止されました。労使協定を締結して除外規定を設けている場合は、就業規則等の見直しが必要です。
介護離職防止のための雇用環境整備
介護休業等の利用を促進するよう、事業主は制度等に関する以下のいずれかの措置を講じるよう、義務付けられました。
①研修の実施
②相談体制の整備(相談窓口設置)
③事例の収集・提供
④利用促進に関する方針の周知
介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
事業主は介護離職を防止するため、個別の周知や意向確認などが義務付けられました。
- 介護に直面した労働者に対する個別の周知・意向確認
介護に直面した労働者に対し、事業主は制度の内容や申出先の周知と、介護休業の取得や介護両立支援制度の利用について、個別に意向を確認しなければなりません。 - 早い段階での情報提供
直面する前の早い段階で制度等を把握できるよう、事業主は労働者が40歳を迎える前後に、制度の内容や申出先について、情報提供する必要があります。
介護のためのテレワーク導入
介護と並行してテレワークで仕事を継続できるよう、措置を講じることが事業主の努力義務となりました。措置を講じる場合は、あわせて就業規則等の見直しが必要です。
2025年10月から施行の育児・介護休業法の改正ポイント
柔軟な働き方を実現するための措置等
柔軟な働き方の実現に向けて、事業主は以下の措置等を講じる必要があります。改正の内容をふまえて、就業規則等の見直しも必要です。
- 企業が講じる措置
3歳から小学校就学前の子どもを持つ労働者に対し、事業主は以下から2つ以上を選んで措置を講じる必要があります。
①始業時刻等の変更
②テレワーク
③保育施設の設置・運営
④養育両立支援休暇の付与
⑤短時間勤務制度
労働者は事業主が講じた措置のなかから、1つを選択して利用することが可能です。 - 対象措置の個別周知や意向確認
3歳未満の子どもを持つ労働者に対して、事業主は子どもが3歳になるまでに1で選択した措置の内容や申出先を個別に周知し、制度利用の意向を確認する必要があります。
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
仕事と育児の両立に関して、事業主は労働者の意向を個別に聞き、自社の状況に応じて必要な配慮をしなければなりません。
- 個別の意向聴取
労働者が本人や配偶者の妊娠・出産を申し出たときや、子どもが3歳になるまでなど適切なタイミングで、事業主は勤務時間帯や勤務地、就労条件などについて、個別に労働者の意向を聞かなければなりません。 - 労働者から聴取した意向についての配慮
1で聞いた労働者の意向に合わせて、事業主は自社の状況に応じて業務量の調整など必要な配慮をしなければなりません。
育児・介護休業法の改正で企業が行うべき対応
就業規則の改定
育児・介護休業法の改正で、これまでと育児・介護休業の運用が変わった点を、就業規則に明記しましょう。特に、労使協定が必要とされる、「有期雇用労働者の取得要件」や、「育児休業中の就業」に関しては、明確に定めておく必要があるでしょう。
育児・介護休業を取得しやすい環境の整備
育児・介護休業の取得を阻害する要因が生じないように、職場環境の整備を行いましょう。ハラスメント防止のための研修の実施や、相談窓口の設置のほか、急な欠員が出ても事業運営に支障をきたさないための人員増強も大切です。
育児・介護休業取得状況の把握
従業員本人の事情である場合を除き、配偶者の妊娠や、親族の介護状況に関しては、企業がリサーチしなければ直前まで把握できない場合もあるでしょう。育児・介護休業に対して柔軟に対応するためには、ある程度、社内の従業員の状況を把握しておく必要があります。休業取得の可能性がある場合は、早めに人員の増強をしたり、オペレーションを整えたりすると良いでしょう。
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まとめ
一般的に、労働者が働き盛りの時期は、出産・育児の時期と重なります。少子高齢化が進む現代では、ここに親族の介護が加わる人も少なくありません。これまでの改正で、育児・介護法は、現代のニーズをより反映した内容に整備されました。企業においても、これまでの改正の主旨を理解し、より多くの労働者が、仕事と家庭を両立し、それぞれが充実したものになるようサポート体制を整えましょう。