「通勤災害」の範囲をマスター!直行直帰の場合は?親の介護のための寄り道は?

カテゴリ:クローズアップ 投稿日: 2017.7.10 tag: , ,

2017年1月より、通勤中の事故による負傷や死亡について「通勤災害」として保険給付を受けられる対象が拡大しました。通勤中の負傷等が通勤災害と認定されるためには様々な要件を満たす必要があることから、従業員から通勤災害の申請があった場合は、状況をきちんと確認したうえで、通勤災害に該当するかどうかを慎重に判断しなければなりません。

今回は、通勤災害の要件を解説するとともに、通勤災害と認められる場合や認められない場合について、それぞれ具体的に解説します。

 

通勤災害とは

通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷や疾病、障害又は死亡のことをいいます。ここでいう「通勤」とは、①就業に関して、②労働者災害補償保険法(労災保険法)7条2項が定める類型の移動を、③合理的な経路及び方法により行うこと、という要件を満たすことが必要です。また、④中断又は逸脱があった場合には通勤と認められず、⑤業務の性質を有する移動については通勤から除外されます。

以下では、それぞれの要件について詳しく説明していきます。

 

①就業関連性

労働者の移動が「通勤」と認められるためには、第一に、その移動が業務に関連して行われていること(就業関連性)が必要です。

一般的には、出勤や退勤などが通勤に該当しますが、それ以外にも、例えば遅刻やラッシュを避けるために早出をした場合や、タイムカードの押し忘れにより会社に戻ってくるような場合についても就業関連性が認められます。

一方、会社に行く場合であっても、休日に会社の運動施設に向かうための移動や、労働組合の大会に出席するための移動は、就業関連性が認められません。

なお、業務終了後に会社内でサークル活動など私的な活動を行った場合、その時間が「社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間」でなければ、その後の帰宅に就業関連性が認められます。この時間は、2時間が目安とされています。

 

②労災保険法7条2項が定める類型の移動

労災保険法7条2項では通勤の形態として、以下の3種類を挙げています。

 

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

 

3番目の「住居間の移動」とは、単身赴任者が週末の間だけ家族の住む自宅に帰るような場合の住居間の移動などが該当します。

ただし、このような移動が通勤として認められるには、親の介護や未成年の子供の養育などの理由でやむを得ず家族と別居している場合に限られています。

 

③合理的な経路及び方法

通勤中の負傷等が通勤災害と認められるためには、当該通勤が合理的な経路及び方法により行われていなければなりません。

社会通念上、労働者が通勤に通常利用する経路であれば、複数の経路があったとしても、それらはすべて合理的な経路とされます。当日の交通事情を理由とした迂回や、共働きの労働者が子供を保育所等に預けるために取る経路などは合理的な経路と判断されますが、特段の理由なく著しく遠回りとなる経路を取る場合は合理的な経路とはなりません。

合理的な方法については、電車やバスといった公共交通機関の利用や、徒歩や自動車、自転車による移動など、通常考えられるような交通方法であれば、一般的に合理的な方法と判断されます。

 

④中断又は逸脱があった場合

通勤の途中で移動の経路を「逸脱」し、または移動を「中断」した場合、その逸脱・中断の間や、その後の移動は通勤として認められません。ここでの「逸脱」は、通勤の途中で就業や通勤と関係ない目的のために合理的な経路をそれることをいい、「中断」は、通勤の経路上で通勤を中断して通勤と関係ない行為を行なうことをいいます。

ただし、通勤の途中で経路近くのトイレを使用する場合や、コンビニなどでたばこやジュースを買うといった場合には、「通勤に通常随伴する行為」とされるため、逸脱や中断には該当しません。

 

中断・逸脱の例外

労働者が通勤の経路に対して中断・逸脱した場合、原則として中断・逸脱した以降の移動は、本来の経路に復帰したとしても通勤とは認められません。

ただし、法律で定められている例外として、日常生活上必要な行為であり、厚生労働省令で定める下記の行為をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、中断・逸脱の後に合理的な経路に復帰した後の移動は再び通勤の扱いになります。

 

  • 日用品の購入やこれに準ずる日常生活上必要な行為
  • 職業訓練や学校教育、その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  • 選挙権の行使や、これに準ずる行為
  • 病院や診療所において、診察または治療を受ける行為や、これに準ずる行為
  • 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に、または反復して行われるものに限る)

 

なお、かつては、孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護のための中断・逸脱は、これらの者と同居し、かつ扶養している場合しか例外として認められていませんでしたが、2017年1月1日より同居・扶養要件が撤廃され、通勤災害の対象が拡大しました。

 

⑤業務の性質を有する移動

上記の条件を満たしながらも通勤に該当しないのが、業務の性質を有する移動です。具体的には、事業主の提供する専用交通機関(送迎バス等)を利用して出退勤する場合や、緊急用務のため休日に呼び出しを受けて出勤する場合等などが挙げられます。

これらの移動中に発生した災害は、通勤災害ではなく業務災害に該当します。また、出張先への移動についても業務の性質を有する移動と考えられるため、業務災害に該当します。

 

通勤災害が認められる場合、認められない場合

では、上記の考え方を踏まえて、実際に生じた事例について通勤災害と認められるのかどうかを解説します。

 

通勤災害と認められる場合

通勤途中の引き返し

退勤の途中で職場の鍵を誤って持ち帰ってきたことに気付き、引き返して会社に向かっている途中で被災した場合、就業との関連性が認められることから、通勤災害となります。

このように、出勤や退勤の途中において仕事上の書類や作業用具等の業務に関連するものを忘れたことで自宅や就業場所へ引き返す場合には、就業との関連性が認められるのが通常で、その途中で起きた災害については通勤災害と認められます。

 

得意先への直行

営業社員が自分の担当する得意先へ営業活動を行なっており、最後に訪問した得意先から直接自宅へ帰ろうとした経路の途中で被災した場合はどうなるでしょうか。この場合、営業社員が最後に訪問した得意先が就業の場所として認められるどうかという点が通勤災害認定のポイントとなります。

本件のように、営業社員が直行直帰という就業形態をとる場合、最初に訪問した得意先が業務開始の場所、最後に訪問した得意先が業務終了の場所となることから、直行直帰中の災害は通勤災害として認められます。

なお、最後に訪問した得意先から直帰せず、事業場に戻ってから帰宅した場合には、最後の得意先から事業場までの間は業務中と考えられるため、その途中での被災は業務災害扱いとなります。

 

退勤途中の散髪

退勤途中に通勤経路上にある理髪店に立ち寄って散髪を行い、その後再び帰路について自宅に向かった際に道路上で転倒して被災した、というケースはどうでしょうか。

結論から述べると、今回のケースでは通勤災害と認められます。一般的に、通勤を中断・逸脱する場合、中断・逸脱が日常生活上必要な行為と認められれば、経路に復帰した段階で通勤と認められることになります。

ここでいう日常生活上必要な行為とは、本人や家族の衣食住といった日常の家庭生活を営む上で必要な行為であって、所要時間も短時間であると評価できる行為を指します。

散髪の他に、クリーニング店への立ち寄りや独身労働者が食堂に立ち寄る場合なども、日常生活上必要な行為として認められ、経路に復帰した後の被災は通勤災害扱いとなります。

 

通勤災害と認められない場合

長時間にわたる就業後のサークル活動

午後6時まで就労していた労働者が、午後6時30分から午後8時30分まで社内のサークル活動に参加し、午後9時に退社した場合、通常の通勤経路の途中での被災であっても通勤災害とは認められません。

ポイントとなるのは、業務終了後のサークル活動に費やした時間が就業と帰宅との関連性を失わせる程度長時間かどうかという点です。上記の例の場合、業務終了から会社を出るまでの時間が3時間であることから、社会通念上就業と帰宅の直接関連性を失わせるほど長時間であると判断されます。すなわち、就業関連性が損なわれたために、通勤災害とは認められなくなります。

 

構内私道での事故

帰宅途中の労働者が、事業場が管理している事業場構内の私道において事故を起こした場合はどうなるでしょうか。この場合、事業場が管理している事業場構内の私道は部外者の立ち入りがない場所であり、事業主の支配管理の下で発生した事故と判断されることから、通勤災害ではなく業務災害となります。

すなわち、就業の場所と住居の間の移動ではなく、就業の場所内での移動と判断されたことになります。同様の理由で、自宅から車での通勤のために車庫に向かうところでの転倒事故なども、住居内での事故と判断されるため、通勤災害とは認められません。

 

 

まとめ

通勤中の負傷等が通勤災害と認められるためには、様々な要件を満たしていることが必要です。特に、通勤の途中で中断や逸脱があった場合、その後通常の経路に復帰した場合でも、原則として通勤災害と認められなくなることに注意が必要です。

従業員から通勤災害の申請があった場合、状況をきちんと確認したうえで、通勤災害に該当するかどうかを慎重に判断するようにしましょう。

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