『月刊総務』編集長に聞く!総務による働き方改革のいま~総務が変われば会社が変わる~

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公開日:2018.2.14

 

労働力人口の減少を背景に、多様な働き方を可能にしようとする働き方改革が閣議決定されたのは2016年8月。総務は働き方改革の旗振り役にもなれる職種ですが、実際のところはどこまで進んでいるのでしょうか。日本で唯一の総務部門向け専門紙『月刊総務』の編集長であり、会社を変えるプロの総務を「戦略総務」と呼ぶ豊田健一氏に、現状と改善案を聞きました。

 

関心はすごく高い。でもみんな悩んでいる最中

―多くの総務部門と接する立場から見て、いまの働き方改革の取り組みをどうとらえていますか?

 

まだ悩んでいる最中かな、という印象を受けます。「働き方改革」でセミナーを開くと通常の倍くらいの人が集まるので、関心の高さは感じます。働き方改革は時短から始まっているので、基本は人事主導で対処していますが、「総務でも何かすべきだとは思う。でも何をしたらいいかわからない」という声を聞きます。そもそも総務として働き方改革をどうとらえていいのかわからないから動き出せていない。というのが現状なのではないでしょうか。

 

 

効率性と創造性をともに上げるオフィスにすること

時短目的として始まった働き方改革も、いまの主眼は生産性向上です。生産性向上の方法は二種類。立正大学の吉川先生がお話されていますが、饅頭屋に例えると、一つは同じ時間で作れる饅頭の数を増やす、つまり効率性の向上です。もう一つは時代に合った新しい饅頭を開発して売る。これも生産性向上の一種で、いわば創造性の向上です。総務が働き方改革に取り組むなら、現場の効率性と創造性の両方をあげる方法を探さなければなりません。

 

総務は働く場、オフィスを司る立場にあります。手段としては、どのようなオフィスにすれば効率性・創造性の両方が上げられるか、ということになります。効率性を上げるには、現場を本業に集中させてあげることが、一番簡単な方法ですね。IT化、BPO化を進めて、本業以外の仕事を現場から巻き取ってあげる。創造性の向上は、偶発的な出会いの場を作ることで、イノベーションが起きやすい働く場を作ってあげること。そうすれば現場の効率性・創造性が上がり、生産性の向上が実現できるのです。

 

総務自身が管理総務で手いっぱい―必要なのは総務自身の働き方改革

―総務が「働き方改革」に対してまだ悩んでいるというのは、何をやって何をやらないかということを決める軸が持てていない、わからないからでしょうか?

 

「言われてやる総務業務で手いっぱい」ということです。総務自体がリソースをもたないと、戦略性も持てないのです。総務がまずやるべきことは、既存業務の徹底的な効率化です。戦略的に考えることができる余裕、リソースを作らなければいけないのです。その上で、やるべきことを選択する際に、効率性と創造性の2軸で何ができるか考えましょう。全社の働き方改革の前に、総務自身の仕事改革が必要です。

 

管理総務が悪いわけではない

―著書の中で、戦略総務の対極にあるのが「管理総務(言われてやる総務)」だとおっしゃっていますね

 

管理総務自体は必要です。そもそも管理ができないと戦略も立てられません。ただし、働き方改革を総務でやろうとした場合は、通常の仕事に追加されることになります。その時に、選択が必要になります。戦略とは選択することです。総務として何が重要で何を選んで実行するか、ということです。

 

戦略総務とは、意識の持ち方の話でもあって、それが働き方改革であろうと管理であろうと構わない。言われてやるだけの総務から脱却して、自ら主導権を持って動くのが戦略総務だということです。そういう動きを、働き方改革というテーマの中でやるのが、今いちばん注目されることになるでしょう。

 

意識を変えるのは難しい―働き方改革の落とし穴

―働き方改革を行おうとして、うまくいっていない事例はありますか。また、どうすればうまくいくとお考えでしょうか?

 

20時または22時で社員を退社させる、という「形から入る」企業は多いですね。結局、意識を変えるのは至難の業なんですよ。それで形から変えようとして、特定の時間でシャットアウトする。そうすると、例えば20時で退勤だから、会議を20時開始にはできないね、じゃあ18時開始にしようか、という感じである程度の効果はあります。

 

しかし仕事の量が減るわけではない。時間を短くすれば生産性が上がるのではないんです。生産性が上がるから労働時間が短くなるんです。では、生産性を上げるにはどうすればいいのか?全ての仕事を一度見える化・再定義して、「この業務には意味があるのか」「無駄な仕事をやってませんか」を改めて問い、不要なものはザックリ減らさなくてはいけないと思うんです。それをせずに退社時間を決めてシャットアウトという形だけを実行している、または退社を呼びかけるだけで、上司が見回るとか査定に組み込むとかの強制力を持たせていない、そういう例は見られますね。

 

総務の業務を整理することでむしろ現場が楽になる

―働き方改革には、会社のプロセスの効率化や業務の再定義が必要だということですね。そこで総務がやるべきことは?

 

ワークシーンに合った場をちゃんと作ってあげることですね。テレワークとかオープンスペースとか、集中できる場所とか、社員が「今はこういう働き方がしたい」と思ったときに、それに使える場がオフィスにあるようにしてあげる。

 

また、総務のやっているワークフローそのものがもっと効率化されれば、結果、全社が効率化されると思います。例えば、総務の業務FAQやメニュー表を作って「総務に依頼するなら、まずここを見て調べてください」「総務に依頼するにはこのメニューから選んでください」とすれば、総務は手間が省けますし、現場でやったほうが早いことは社員が自力でやれるようになります。総務の業務を整理することによって現場がとても楽になるケースもあるんですよ。これによって、総務のリソースに余裕ができるし、総務の業務が効率化する。すると全社の業務も効率化できます。総務の業務は全社の業務に絡むことなのですから。

 

 

「これまでやっていないことは何をやってもいい」のが総務の仕事

―総務も現場も、みんなの作業が効率化できる働き方改革ということですね。ただ、全社が絡む総務の業務を整理するにはパワーが要ります。どうすればやりとげることができますか?

 

やろうとするマインドをもつことが大事です。現状できることや言われることだけをやるのは楽ですよ。でも、そんな仕事、楽しいですか?「これまでやっていないことは何をやってもいい」のが総務の仕事。会社のお金でいろいろさせてもらえて、社内外に人脈もできて、何かの分野を任されたらその専門家にもなれる。全社に対してとてもインパクトの大きい仕事ができる。自分の裁量権の中でいろいろやれるのだから、やった方が楽しいでしょう。

 

働き方改革は、個々人がいかにモチベーション高く健康的に働けるかどうかにかかっています。だから同僚がハッピーに働けるように、総務自身も楽しいと思えるように、戦略総務のマインドをもって働き方改革に取り組んでほしいですね。

後編へ続く・・・

■インタビュイー

豊田健一氏

日本で唯一の総務部門向け専門紙『月刊総務』編集長兼事業部長。早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長を経験後、ウィズワークス株式会社入社。総務経験を生かした総務部業務全般のコンサルティングと、戦略総務/総務の実態に関する講演を行っている。著書に『経営を強くする戦略総務』『マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

 

 

■豊田氏近著

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター)

豊田氏の提唱する「戦略総務」は、いわばプロフェッショナルの総務で会社を変える存在である。しかし現在、多くの会社で総務は何でも屋的に扱われており、「言われてやる仕事」やルーティンワークに追われる「管理総務」に留まっているのが実態だ。どうすれば会社を変え自分を変え、社内外で価値のあるプロの「戦略総務」になれるのか。そのハウツーを実践事例をまじえて紹介している本。

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