先輩に聞く―「『戦略総務』への道」

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公開日:2018.6.6


■インタビュイー
小山義朗(こやまよしろう)氏
ソニー(株)にてオフィス管理を担当し数々の新しい施策を展開、日本におけるファシリティ・マネジメント(FM)先駆者として知られるようになる。1997年、ソニーマーケティング(株)初代総務部長。07年~09年、ソニーファシリティマネジメント(株)社長。拠点戦略を構築し、経営視点と働く人のマッチングを考えた働き方改革を早くから推進。12年よりFOSC代表理事、13年より小山エフ.エム.ブランド代表。

■一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)
ファシリティサービス、オフィスサービス、総務事務等の業務に従事する人々の専門性と地位向上のために設立された団体。相互に切磋琢磨し専門知識、技術、プロフェッショナリズムの習得をもって、顧客満足、ブランディング、生産性向上等に寄与する活動を推進している。
http://www.fosc.jp/

企業には戦略的な視点を持った「プロの総務」が必須―そういう声が定着しつつある一方、「総務は何でも屋」「誰にでもできる仕事」という見方が、根強いのも残念ながら事実です。
戦略総務の先駆者でもあるソニーマーケティング(株)初代総務部長だった小山義朗氏に、自身の総務としてのキャリアを振り返っていただきました。総務のありかたとしてのヒント満載です!

はじまりは複数ある依頼書のまとめから

―総務としてのキャリアが始まったころのお話を聞かせてください。

入社したころは、国内外で工場・オフィスビル建設等の、企画から予算化、部門との事前の打ち合わせ、現地の確認、工場建設のときの管理、終わったときのレポート、といった流れをやりました。その後、1984年ごろ、上司から「ワンストップで社内向けのソリューションをしろ」と言われたのです。当時、ファクス・電話は通信課、引っ越しは庶務課、工事は施設課、什器を買うのは調達業務課…と、同じ総務部の中で4つの課宛てに依頼書が必要でした。

それを1つにまとめようと調べているうちに、このような部門間に横ぐしを差す仕事の進め方はアメリカで広まってきていた「ファシリティ・マネジメント(FM)」だと知りました。オフィス環境や、働き方を整備・改善する仕事に関わるようになったのはそれからです。もともとはエンジニアです。

 

―FMと、一般的に言われる「総務」との違いは何ですか?

FMのポイントを一言でいえば「経営とどうやって方向性を一致させて仕事をするか」ということにつきます。それを領域ごとに、総務でもファシリティでも安全でも、狭くやろうとすると、全体像をつかめません。「自分たちがいるから会社がよくなる」と思ってもらえる仕事をするには、やはり全体を見ることが必要になると思います。

 

120%働いた結果、気づいた「YES! But」

―振り返ってみて、「自分はあのとき、大きく成長した」と思える時期はいつですか?

30歳少し前、私にだけ仕事がいっぱい来る時期があって、直属の上司に文句を言ったことがあります(笑)。そうしたら、「小山にはいつも120%の負荷を与えている。容量も増えていくはずから、毎年120%を掛けていくと3年後には能力が2倍になるぞ。こんないいことはないだろう」と言われました。それから私は、仕事に対して文句を一切言わなくなりました。「これは大変だ」とか、「こんなことできない」とかいうことは一切言わない。

代わりに学んだのが、「YES! But」という発想です。どんな難題でも「Yes!」ととにかく受け入れて、それから「But」、「どうやったらできるか」「どういう条件下だったらできるか」と考えるようになったんですね。この考え方はのちに、マネジメントする立場になってずいぶん役立ちました。

たとえば、5月の連休を使ってロビーの大改修をやったとき、直前になってゼネコンの現場責任者さんが「できない」と言ってきたことがあるんですね。「洗面器具が納期に間に合わないから、できない」と。そのとき私は、「私なら、できないとは言わない。できます、ただし洗面器具は仮の物をつけて、後で正規の物につけ換えよう、そう考えます」と言ったんですね。そうしたらゼネコンさん側も「やります」と言ってきてくれて、間に合った。短い工期でやらないといけないのならば、「どうやったらできるか」「できない理由は何か」と考えて、やる前提でプロセスを考えていくのです。この発想で解決できたことは多かったです。

 

―つらかったときはありましたか?

昔は、「もう辞めよう」と何度も思いました。結局辞めなかったのは、いろいろな人に、節目節目で助けられたからです。

 

―そのように助けられた理由を知りたいです。役員、営業、上司、部下、同僚といった社内のステークホルダーの方々と、どのような付き合い方をしてきたからでしょうか?

私のマネジメントポリシーは「勇気と優しさ」。優しさというのは、部下をたとえ叱っても、その中には思いやりがなければいけないという意味です。勇気というのは、戦える勇気のこと。たとえば役員に対してでも、言うべきことは言う。すると私の上司のところに「小山は生意気だ」って苦情が入ったりもしますが、上司が「言い方が悪いのは本人に注意しますが、小山の言っていることは間違っていませんよね?」と返してくれました。

同僚や部下に対しては時間をかけます。新しいことをやろうとすれば、コンサバティブな人は反発しますから。だから宴席の場で「●●さんは僕のこと嫌いみたいですけど、僕は●●さんが好きですから」と言いにいく(笑)。それは本当にその人から学びたいところがあるからです。だから「こういう点を教えてほしいし、お手本にしたい」と口に出すようにします。部下に対しては、「僕は自分のあずかった部下たちを日の当たる場所に出す!」と宣言していました。

「総務は縁の下の力持ち」を否定するつもりはありませんが、やはり私は、部下を表舞台に出す責任が自分にはあると思っていました。

 

経営者は、総務の「売上」を評価すべき

―小山さんが戦略的な総務ができたのは、ソニーだったからでは?

よくそう言われますよ(笑)。「われわれはソニーとは違う」「上司の理解も得られないし」ってね。でも私は「それでもチャレンジしようよ!」と訴えています。実のところ、企業の経営者が「うちは経理が総務を兼務しているけど何の支障もない」「総務って必要なの?」なんて言うのを聞いたことがあります。私は「人という本当の財産をいかしきれていない社長は失格ですね」と返したんですが。

 

―経営者サイドが、総務を評価してあげる必要がある、と?

総務に優秀な人をアサインすることで、その社で働く人のレベルがどんどん上がっていきます。売り上げに直結しない総務の評価は低い傾向がありますが、総務が努力して経費を削減したらそれは利益に匹敵する。たとえば、売上高利益率が1%の会社で100万円を削減したら、それは1億の売り上げに相当する、と評価すべきなのです。

 

とにかくたくさん外に出た。それで自分の価値を上げた。

―自己研さんで意識していたことはありますか?

外へ出ていろいろなコンソーシアムへ参加して、ネットワークを作ってきました。「上司が外出を許さない」「忙しい」ということは理由にしないように意識して、とにかく外に出ました。信頼関係ができると、そこで知り合った人たちに相談に乗ってもらっていました。

 

―自分たちの評価を高めるために、経営陣や社長に対しアピールしたりは?

アピールしようにも、もうけなきゃダメでしたね。「あるべき姿を言っているだけじゃダメだ。実行して結果を出さなければいけない」と思っています。会社が喜ぶことは、結局コストダウンや、業務スピードの効率化でした。だから、そういう仕事の仕方をするように気をつけていましたね。

 

―仕事の効率をどのように上げているのか、具体的にお教えいただけますか?

戦略を履行するには、プロジェクト化してこなすといいですよ。私は最近、100日で目安をつける「ワンハンドレッドデイズ」を心がけています。ある組織を活性化したいとか効率化したいと頼まれた場合、業務改善プロジェクトを期限を設けて実行し、成果を出すようにしています。

 

とにかくやってみる―今すぐできることから変えていけ

―最後に、総務の皆さんにエールをお願いします。

基本はやっぱり、自分の価値向上をどうやって意識するのかが大事ですね。でないと行動につながらない。「こうすればいいのに」でなくて「やってみる」ことが肝要です。5S等は、時間もおカネもかからないからすぐにできますよ。周りの協力さえ得られれば、行動できることがあります。そのためには、外に出たり、新しいことをやったりと、とにかく実行です。

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