非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、厚生労働省は、非正規雇用労働者の正社員化や人材育成、処遇改善に取り組む企業に対して助成する「キャリアアップ助成金」を設けています。
キャリアアップ助成金を活用することで、優秀な人材確保や人材育成に役立てることができ、企業の生産性向上にも役立ちます。
今回は、キャリアアップ助成金の内容や助成額、受給に必要な手続きについて解説します。
目次
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、非正規雇用労働者の正社員化や人材育成、処遇改善などの取組を行った企業に対して国から支給される助成金です。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップに関する企業の取組内容に応じて「正社員化コース」「人材育成コース」「処遇改善コース」の3コースからなり、それぞれ助成額が異なります。
キャリアアップ助成金の支給対象事業主
キャリアアップ助成金の支給対象となる事業主の要件は、下記のとおりです。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
キャリアアップ助成金は企業規模に関わらず受給することができますが、中小企業の場合、大企業よりも多額の助成金が支給される場合が多くなっています。キャリアアップ助成金における中小企業の範囲は、以下の表のとおりです。
資本金の額・出資の総額 | または | 常時雇用する労働者の数 | |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 | |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
キャリアアップ助成金のコースおよび助成額
キャリアアップ助成金のコースおよびそれぞれの助成額は下記のとおりです。
正社員化コース
「正社員化コース」では、有期契約労働者等を正規雇用労働者や多様な正社員等に転換または直接雇用した場合に、助成金が支給されます。
なお、ここでの「多様な正社員」とは、勤務地限定正社員・職務限定正社員・短時間正社員のことをいいます。
助成額
助成額は、対象となる労働者の転換前後の雇用形態により異なり、労働者1人当たり下記の金額が支給されます(括弧内は、中小企業以外に対する助成額)。
- 有期契約労働者→正規雇用労働者:1人当たり60万円(45万円)
- 有期契約労働者→無期契約労働者:1人当たり30万円(5万円)
- 無期契約労働者→正規雇用労働者:1人当たり30万円(5万円)
- 有期契約労働者→多様な正社員:1人当たり40万円(30万円)
- 無期契約労働者→多様な正社員:1人当たり10万円(5万円)
- 多様な正社員→正規雇用労働者:1人当たり20万円(15万円)
人材育成コース
「人材育成コース」では、有期契約労働者等に次の訓練を実施した場合に助成金が支給されます。
①一般職業訓練(Off-JT)
②有期実習型訓練(Off-JTとOJTを組み合わせた3~6ヶ月の職業訓練)
③中長期的キャリア形成訓練(Off-JT)
「Off-JT」とは、就労の場における通常の生産活動と区別して業務外で行われる職業訓練のことをいい、「OJT」とは、適格な指導者の指導のもと業務の遂行の過程内における実務を通じた実践的な技能や知識の習得にかかわる職業訓練のことをいいます。
例えば、自社の仕事の進め方等について指導する新入社員の集合研修は「Off-JT」、訓練のために上司の付き添いで営業回りをする場合は「OJT」、などと分類されます。
助成額
助成額は、訓練の内容や訓練時間数により異なり、下記の額が支給されます(括弧内は、中小企業以外に対する助成額)。
Off-JT分の支給額
まず、賃金助成として、1人1時間当たり800円(500円)が助成されます。また、経費助成として、1人当たりOff-JTの訓練時間数に応じて、下表の額が助成されます。
一般・有期実習型・育児休業中訓練(*) | 中長期的キャリア形成訓練 | 有期実習型訓練後に正規雇用等に転換された場合 | |
100時間未満 | 10万円(7万円) | 15万円(10万円) | 15万円(10万円) |
100時間以上200時間未満 | 20万円(15万円) | 30万円(20万円) | 30万円(20万円) |
200時間以上 | 30万円(20万円) | 50万円(30万円) | 50万円(30万円) |
*育児休業中訓練は経費助成のみ適用されます
OJT分の支給額
実施助成として、1人1時間当たり800円(700円)が助成されます。ただし、OJTに関しては、1年度1事業所当たりの支給限度額が500万円に設定されています。
処遇改善コース
「処遇改善コース」では、有期契約労働者等に次のいずれかの取組を実施した場合に助成金が支給されます。
- 基本給の賃金規定等を増額改定し、昇給した場合
- 正規雇用労働者と共通の処遇制度を導入・適用した場合
- 短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合
助成額
助成額は、取組内容や制度が適用される労働者の数などにより異なり、下記の額が支給されます(括弧内は、中小企業以外に対する助成額)。
①賃金規定等の改定
- すべての有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
- 対象労働者数が1人~3人:総額10万円(5万円)
- 対象労働者数が4人~6人:総額20万円(15万円)
- 対象労働者数が7人~10人:総額30万円(20万円)
- 対象労働者数が11人~100人:1人当たり3万円(2万円)
- 一部の有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
- 対象労働者数が1人~3人:総額5万円(5万円)
- 対象労働者数が4人~6人:総額10万円(5万円)
- 対象労働者数が7人~10人:総額15万円(10万円)
- 対象労働者数が11人~100人:1人当たり5万円(1万円)
②共通処遇制度の導入
- 健康診断制度
有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合…1事業所当たり40万円(30万円)
- 賃金規定等共通化
有期契約労働者等について正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合…1事業所当たり60万円(45万円)
③短時間労働者の労働時間延長
- 短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、新たに社会保険に適用した場合…1人当たり20万円(15万円)
- 賃金規定等改定と併せて労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に適用した場合
- 1時間以上2時間未満:1人当たり4万円(3万円)
- 2時間以上3時間未満:1人当たり8万円(6万円)
- 3時間以上4時間未満:1人当たり12万円(9万円)
- 4時間以上5時間未満:1人当たり16万円(12万円)
キャリアアップ助成金の受給に必要な手続き
キャリアアップ助成金の受給にあたっては、下記の手続きが必要となります。
キャリアアップ計画の作成・提出
キャリアアップ助成金を活用するにあたっては、事前に「キャリアアップ計画」を作成のうえ労働局またはハローワークに提出し、所轄の労働局長の確認を受けることが必要です。
キャリアアップ計画は、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取組を計画的に進めるために今後のおおまかな取組イメージをあらかじめ記載するものであり、労働組合等の意見を聴いて作成します。
訓練計画届の作成・提出(※人材育成コースの場合)
人材育成コースの場合は、訓練の実施前に「訓練計画届」を作成し、所轄の労働局長の確認を受けることが必要です。訓練計画届は、訓練開始日の前日から起算して1ヶ月前までに労働局長に提出しなければならないため注意しましょう。
取組の実施
それぞれのコースに応じた取組を実施します。コースによっては就業規則の変更や賃金規定の改定等、規定の整備が必要となるため、適切に行うようにしましょう。
就業規則の作成方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、参考にしてください。
支給申請
取組実施後2ヶ月以内に支給申請を行います。申請時に必要な書類は多数あり、それぞれのコースにより異なりますので、厚生労働省のホームページをしっかりと確認したうえで、漏れがないよう用意することが大切です。
申請に不安がある場合は、社会保険労務士等の専門家に相談するとよいでしょう。
まとめ
キャリアアップ助成金を活用することで、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するとともに、優秀な人材の確保や人材育成に役立てることができます。ぜひこの制度を活用し、今後の自社の成長につなげてみてはいかがでしょうか。