雇用保険の適用対象を正しく把握していますか?―65歳以上の労働者も対象です―

tag:
公開日:2016.11.28

b25b9c65442a98373cc98b9fe97a6d0a_s

雇用保険法が改正され、平成29年1月1日より、65歳以上の人も新たに雇用保険の適用対象となります。今回の改正に伴い、今後65歳以上の人を新たに雇用する場合や、現在65歳以上の人を雇用している場合には、ハローワークへの届出等の手続きが必要となる場合があります。今回は、雇用保険の適用拡大の内容や、企業がすべき対応について解説します。

雇用保険とは

雇用保険は、政府が管掌する強制保険制度です。雇用保険の主な取組の一つとして、労働者が失業した場合や労働者に雇用の継続が困難となる事由が生じた場合等に、生活や雇用の安定と就職の促進のために失業等給付を支給することがあります。

雇用保険の加入要件は「1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがあること」とされており、この労働条件に当てはまる労働者は原則として強制的に雇用保険の被保険者となりますが、これまでの制度では、同一の事業主に65歳以前から引き続いて65歳に達した日以降も雇用されている「高年齢継続被保険者」を除いて、65歳以降に雇用された人は雇用保険の対象外とされていました。

今回の雇用保険法等の改正により、これまで雇用保険の適用対象外であった65歳以上の労働者であっても、「1週間の所定労働時間が20時間以上、31日以上の雇用見込み」という要件に該当する場合は、新たに雇用保険の適用対象となります。

今回の制度改正の背景には、過去と比べて65歳以上の雇用者数が急増しているなどといった雇用情勢の変化があります。高齢化が進む現代の日本において、65歳以上の高年齢者の雇用をより一層推進し、生涯現役社会を実現するため、雇用保険の適用範囲が拡大されることとなりました。改正法は、平成29年1月1日より施行されます。

 

65歳以上の労働者も新たに雇用保険の適用対象となります

上述のとおり、平成29年1月1日以降、65歳以上の労働者についても適用要件を満たす場合は「高年齢被保険者」として雇用保険の適用対象となります(ただし、65歳以上の労働者の雇用保険料の徴収は平成31年度分までは免除されます)。

雇用保険の適用範囲が65歳以上の労働者にも拡大されることにより、下記の各給付金について、それぞれの受給要件を満たした場合には支給対象となります。

高年齢求職者給付金

平成29年1月1日以降、高年齢被保険者として離職した場合、受給要件を満たすごとに高年齢求職者給付金が支給されます。この給付金は、年金と併給することが可能です。

  • 受給要件
  1. 離職により資格の確認を受けたこと
  2. 労働の意思及び能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態にあること
  3. 離職前1年間に雇用保険に加入していた期間が通算して6ヶ月以上あること
  • 支給額

被保険者であった期間が1年未満の場合は基本手当日額の30日分、1年以上の場合は基本手当日額の50日分が一時金として支給されます。基本手当日額は、離職前の被保険者期間6ヶ月間に支払われた賃金総額(賞与等は除く)を180で割って算出した金額のおよそ50~80%として計算され、上限額は6370円となっています(平成29年7月31日までの額)。

育児休業給付金、介護休業給付金

平成29年1月1日以降に、高年齢被保険者として新たに育児休業や介護休業を開始する場合、要件を満たせば育児休業給付金、介護休業給付金の支給対象となります。

教育訓練給付金

平成29年1月1日以降に、厚生労働大臣が指定する教育訓練を開始する場合、要件を満たせば教育訓練給付金の支給対象となります。

 

ハローワークへの届出が必要です

今回の制度改正に伴って、新たに雇用保険の適用対象となる65歳以上の労働者を雇用した場合、事業所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。なお、届出の要否や提出期限は雇用日等により異なりますので注意が必要です。下記では、適用要件に該当する65歳以上の労働者を雇用した場合の雇用保険の適用例を示していますので、参考にしてください。

平成29年1月1日以降に新たに雇用した場合

雇用した時点で高年齢被保険者となるので、雇用した日の属する月の翌月10日までに管轄のハローワークに届出をする必要があります。

なお、雇入れ後に所定労働時間の変更等の労働条件の変更があり適用要件に該当することとなった場合は、労働条件の変更となった時点で高年齢被保険者となります。この場合は、変更日の属する月の翌月10日までに管轄のハローワークに届出をする必要があります。

平成28年12月末までに雇用し、平成29年1月1日以降も継続して雇用している場合

平成29年1月1日より高年齢被保険者となるので、平成29年3月31日までに管轄のハローワークに届出をする必要があります。

なお、平成29年1月1日以降に所定労働時間の変更等の労働条件の変更があり適用要件に該当することとなった場合は、労働条件の変更となった時点で高年齢被保険者となります。この場合は、変更日の属する月の翌月10日までに管轄のハローワークに届出をする必要があります。

高年齢継続被保険者である労働者を平成29年1月1日以降も継続して雇用している場合

この場合は、自動的に高年齢被保険者となるのでハローワークへの届出は不要です。

資格取得届が受理された場合は、ハローワークから「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書」と「雇用保険被保険者証」が交付されます。これらは労働者本人に渡す必要がありますので、確実に渡すようにしましょう。

 

まとめ

雇用保険の適用拡大は間近に迫っています。すでに65歳以上の労働者を雇用している場合は、労働時間等の条件が雇用保険の適用要件を満たすか確認のうえ、要件を満たす場合には雇用保険への加入手続きが必要です。ハローワークへの届出が必要か否か、直前となって慌てることのないよう、事前にしっかりと確認しておきましょう。

また、65歳以上の労働者の雇用保険料の徴収は平成31年度分まで免除されます。手続きにあたっては、この点にも留意するようにしましょう。

 

監修者

勝山 竜矢(かつやま たつや)

 

株式会社リーガルネットワークス 代表取締役

 

社会保険労務士事務所リーガルネットワークス 所長

 

http://www.kintaikanrikenkyujo.jp/

社会保険労務士として独⽴開業時より、ソニーグループの勤怠管理サービスの開発、拡販等に参画。これまでに1,000社以上の勤怠管理についてシステム導入およびご相談に対応。現在は、社会保険労務士事務所の運営並びに勤怠管理システムAKASHIの開発支援を実施。

こちらも読まれています:

この記事が気に入ったら いいね!しよう
somu-lierから最新の情報をお届けします

この記事に関連する記事