「レジリエンス認証制度」とは?

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公開日:2016.12.9

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地震等の自然災害が多く発生する日本では、災害発生時に迅速に回復できる経済社会システムを構築することが重要です。このことから、政府は、大規模な自然災害等への備えとして事業継続に関する取組を積極的に行う事業者を認証する「レジリエンス認証制度」を2016年に創設しました。

今回は、レジリエンス認証制度の概要や、認証によって得られるメリット、認証要件などを解説します。

 

レジリエンス認証制度とは

レジリエンス(resilience)は、もともと精神医学・心理学の分野で用いられる「精神回復力」「逆境に負けない力」という意味の用語です。これを「防災」の分野に適用し、「自然災害やテロなど想定外の事態が発生し社会システムや事業の一部の機能が停止しても、全体としての機能を速やかに回復できる強靭さ」という意味で用いられています。

東日本大震災をはじめとする様々な自然災害の発生等を背景に、日本では「国土強靭化」の必要性が認識されてきました。国土強靭化は、いかなる災害が発生しようとも、人命を最大限保護することはもちろん、経済社会への被害が致命的なものにならず、迅速に回復することができる強さとしなやかさを備えた国土・経済社会システムを構築することを基本目標としています。

国土強靭化を実現するためには、民間企業をはじめとして社会全体でレジリエンスを強化していくことが必要不可欠です。そのため政府は、2016年に、大規模な自然災害等への備えとして事業継続に関する取組を積極的に行っている事業者を「国土強靭化貢献団体」として認証する「レジリエンス認証制度」を創設しました。

レジリエンス認証制度を普及することで、民間企業等の事業継続の積極的な取組を広げ、社会全体の強靭化を進めることが目的とされています。

 

企業におけるレジリエンスとは

企業がレジリエンスを強化するためには、事業活動の継続確保が最も重要です。災害時などに事業活動が滞ると、自社の経営に影響するのみならず、地域の経済にも打撃を与え、さらには取引関係を通じて他の地域へ影響が飛び火することも想定されます。このような事態を防ぎ、事業を継続させるため、「事業継続計画(BCP)」の策定が必要となります。

事業継続計画(BCP)は、大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針・体制・手順等を示した計画のことをいいます。

政府は、2020 年までに事業継続計画の策定割合を大企業はほぼ 100%、中堅企業は 50%にするという目標を掲げています。2015年度の内閣府の調査によると、調査回答企業のうち、大企業の60.4%、中堅企業の29.9%が事業継続計画を策定済みと回答しており、策定は進んできている状況にありますが、引き続き各企業において積極的に取組を進めていくことが必要です。

 

レジリエンス認証取得のメリット

企業がレジリエンス認証を取得する主なメリットは二つあります。

まず一つは、企業価値の向上が期待できる点です。レジリエンス認証を受けた団体は、レジリエンス認証マークを広告や社員の名刺等に用いることができます。さらに、希望をすれば、内閣官房国土強靱化推進室のホームページに認証取得団体として掲載されます。これにより、その企業が事業継続のために積極的な取り組みを行っているということ、つまり想定外の事態が発生しても経営への影響を最小に抑え、迅速に機能を回復することができる企業であることを、顧客や市場に強くアピールすることができ、企業価値の向上につながります。

もう一つのメリットは、自社の事業継続計画を見直し、改善することができる点です。レジリエンス認証にあたり、自社の事業継続に関する取組を専門家の目で評価してもらえるため、より確実で効果の高い事業継続計画を策定することが可能となります。

 

レジリエンス認証制度の認証要件

レジリエンス認証は、「一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会」が、「国土強靭化貢献団体の認証に関するガイドライン」に基づいて行います。認証を受けるためには、以下の9つの要件を満たすことが必要です。

 

(1)事業継続に係る方針が策定されている

企業の経営理念や経営方針に関連付けられた、災害時等における事業継続方針があること。

 

(2)事業継続のための分析・検討がされている

「どういった事態が起こると致命的になるか」といった事業影響度分析およびリスク評価・分析を行い、重要業務とその目標復旧時間を明確にし、資源の脆弱性を把握していること。

 

(3)事業継続戦略・対策の検討と決定がされている

事業影響度分析やリスク評価等を踏まえ、目標復旧時間内に重要業務を継続・復旧させる戦略・対策を検討し、決定していること。

 

(4)一定レベルの事業継続計画(BCP)が策定されている

目標復旧時間内に重要業務を継続・復旧させるための体制、手順等を示した事業継続計画が策定されていること。

 

(5)事業継続に関して見直し・改善できる仕組を有し、適切に運営されている

事業継続に関して見直し・改善できる仕組みを有し、改善のための見直しが定期的に行われていること。

 

(6)事前対策が実施されている

施設の強化や装備品の確保など、事業継続の実効性を高めるための事前対策が適切に行われていること。

 

(7)教育・訓練を定期的に実施し、必要な措置が取られている

事業継続力を高めるための教育・訓練を定期的に実施し、必要な改善が行われていること。

 

(8)事業継続に関する一定の経験と知識を有する者が担当している

事業継続に関する実務を 2 年以上積んだ実績がある者、または民間の機関が発行する事業継続に関する民間資格を保有する者が事業継続を担当していること。

 

(9)法令及び法令に基づく命令その他法令に違反する重大な事実がない

国土強靱化に係る法令に関して、違反する重大な事実がないこと。

 

認証要件のポイントとなるのは、事業継続計画(BCP)が策定されているかという点です。どういった事態が起こると自社の事業にどのような影響を与えるかという影響度の分析・リスク評価を行った上で、事業継続のために必要な資源(ボトルネック資源)を把握し、それらが利用できなくなったり不足したりした場合はどのように代替するかを検討します。これらのことを通じて、不測の事態が発生しても重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、手順等を検討するとともに、施設の耐震化、大規模施設の耐震診断、浸水対策、システム化や従業員のための災害備蓄品の確保等といった事前対策を行います。

その上で、計画の見直し・改善をきちんと行っていることや、従業員に対し、想定外の事態に適応できるような教育・訓練を定期的に実施していることも重要な要件となります。

なお、9つの要件に加えた留意事項として、国土強靭化の取組促進への協力や、国土強靭化推進のための調査への協力なども掲げられています。レジリエンス認証にあたっては、自社の事業継続のみならず、地域や国の経済システムの安定のために協力的な企業であるかどうかも重要な判断ポイントになります。

 

まとめ

企業において事業継続の取組を進め、レジリエンス認証を取得することは、自然災害等の不測の事態への迅速な対応を可能にするだけでなく、企業価値の向上や、企業競争力の強化にもつながります。これを機に、自社が「レジリエンス」を備えているかどうか、一度見直してみてはいかがでしょうか。

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