副業・兼業認めるべき? 副業・兼業解禁のすすめ

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公開日:2018.5.2

多様な働き方が推進される中、副業・兼業の解禁に注目が集まっています。副業・兼業は、働き方の多様化やキャリア形成における主体性を高めることなどを可能にし、企業と従業員の双方へのメリットがあります。その一方で、機密情報の漏えいや長時間労働などのリスクも伴うため、適切な仕組みを作る必要があります。今回は、従業員が副業・兼業する場合の実務について、具体的に解説します。

副業・兼業を取りまく現状

副業・兼業を推進する政府

多くの日本企業は従業員の副業・兼業を認めていません。現在副業・兼業を推奨する当の厚生労働省も、平成29年12月までに企業向けに公開していたモデル就業規則では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」としていました。現状では8割以上の企業が、自企業の業務が疎かになること、情報漏洩の恐れ、競業の可能性などを理由に副業・兼業を禁止しています。

しかし現在、副業・兼業を開始したいと考える人が増えています。希望する理由はスキルアップや収入増のため等と様々であり、また好む形態も正社員、パート、アルバイトなど多岐に渡っています。これに加えて、厚生労働省は過去に散見される副業・兼業を巡る裁判の判例から、「従業員の就業時間外の時間活用は基本的に自由であり、企業が制限できるのは、労務上の支障がある場合、企業秘密の漏洩する場合、企業の名誉や信用を損なう行為等の認められる場合、競業する場合のみと考えられる」と分析しています。このような状況と労働人口の減少等を背景に、政府は副業・兼業を推奨する方針へと舵を切り、副業・兼業に関するガイドラインを公示するなど、副業・兼業を開始する企業と従業員への支援を開始しました。

副業・兼業のメリット

企業が従業員の副業・兼業を認めることのメリットとして、従業員が自企業内では得られない知識や能力を獲得できること、従業員の自律性や自主性を育むこと、人材の確保、企業外の情報が流入することで事業機会の拡大が見込めることが挙げられます。また、従業員においても、離職のリスク無く他の仕事を通じたスキルアップやキャリア形成が可能となること、自己実現につながること、収入増などの利益があります。

副業・兼業のデメリット

多くの企業が副業・兼業を禁止している理由には、自企業の業務が疎かになること、情報漏洩の恐れ、競業の可能性といった上述の懸念に加えて、新たに生ずる事務対応、就業時間の把握の煩雑さというコスト面での問題も存在します。従業員としても、労働時間の延長や健康管理の必要性、また場合によっては雇用保険等や割増賃金の有無の把握の必要性といった新たな面倒が増えることが予測されます。

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副業・兼業へ取るべき対応

企業側

厚生労働省は過去の裁判例を鑑みて、企業は原則として従業員の副業・兼業を認めるべきであるとしています。つまり、企業は自社での業務に支障が出ない限り、従業員と企業の双方が納得できる形での意志疎通を通じ、必要に応じて従業員から申請や届出を受け取るなどした上で、副業・兼業を許可する方向で検討することが求められるということです。

この際企業側は、従業員の健康や就業時間を把握するため、守秘義務に抵触しない範囲で副業・兼業先の業務などについてある程度把握し、長時間労働のないように取り計らうことが望ましいとされています。なお注意点として、就業時間については、副業・兼業先であるかにかかわらず、通算した労働時間が労働基準法の規定の範囲内である必要があります。また健康管理についても、労働者が副業・兼業をしているかどうかにかかわらず健康診断等を行わなくてはならないと労働安全衛生法により規定されています。

以上をまとめると、副業・兼業を認めるにあたって、まずは以下の事項を規定しておく必要があります。

  • どのような職種を許可するか
  • どのような申請を従業員にさせるか
  • どのように従業員の状況を把握するか
  • どのような措置と酌量を副業・兼業を行う従業員に対して認めるか

実際に従業員からの申出があったときには、守秘義務に抵触しない範囲で副業・兼業先の業務を把握します。そして随時、就業時間や健康状態の管理を行って下さい。

従業員側

まずは自らの所属する企業が副業・兼業をどのような条件のもとで認めているかについて就業規則や契約内容を確認して、支障のない職種は何か、就業時間はいつであれば良いのか等を把握した上で、無理のない副業・兼業先を選ぶことが重要です。この際、上司や担当者と十分な話合いを行う必要があることは言うまでもありません。そして実際に副業・兼業を始めた後にも、自分が過剰に労働していないか、健康が損なわれてはいないか常に気を払っておく必要があります。現在、兼業や副業における「通算ルール」の見直しが検討されており、労働時間の管理が従業員の自己申告制へと変わる見込みです。一定期間での総労働時間を常に把握し、上限に近づいた段階で企業に対して報告するよう徹底しましょう。

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その他の労働環境の調節

労働災害保険

副業・兼業している従業員かにかかわらず、全従業員に対して企業側が加入手続を取ることが必須となっています。また、ある企業から別の企業に移動する途中で起こった災害については、通勤中の労働災害として移動先であった企業の保険で処理されます。

雇用保険

雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間未満の者か、31日以上継続して雇用される予定でない者を除き、原則全従業員に対して加入手続を行う義務があります。ただし、従業員が複数の企業において上記の条件を満たす場合は、最も主たる収入源となる勤務先の企業のみが適用されます。

厚生年金保険、健康保険

社会保険は加入手続の必要の生じる条件が企業毎に異なり、もしいずれの企業でも条件に満たない場合、その従業員には保険が適用されません。これはたとえ合算すれば条件を満たす場合でも同様です。

確定申告

従業員が副業・兼業を行って年に20万円を超える収入がある場合は、従業員自らが確定申告を提出する義務を負います。これは、給与を1ヶ所から支給されていて、同時に20万円以上の雑所得などの各種所得金を得ている場合、給与を2ヶ所以上から支給されていて、年末調整されていない給与を含んだ各種所得金が合計年20万円以上である場合が該当します。

割増賃金

先述の通り、労働時間は通算されるため、合計労働時間が週40時間を超過すれば勤務先の企業の内のいずれかが割増賃金を払う必要性が生じます。これは原則として副業・兼業先の企業が払うことになりますが、条件によってケースは異なる可能性もあります。

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まとめ

フレックスタイム制など労働環境の柔軟化が促進されるなか、副業・兼業の普及も避けては通れない道であると考えられます。労働環境を変える必要性が生じますが、今後予想される傾向を踏まえて、副業・兼業を大々的に認める労働体制も一考の価値はあると言えます。

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