
プロティアンキャリアとは、個人が自己実現や幸福追求のために、環境の変化に応じて柔軟にキャリアを形成することを指します。従来の「企業が用意するキャリア」とは異なり、個人が主体的にキャリアを選択・適応していく点が特徴です。メリットとして、時代の変化への適応や仕事への満足度向上が挙げられます。今回は、プロティアキャリアの意味、従来のキャリアとの違いやメリットについて解説します。
目次
プロティアンキャリアの意味
プロティアンキャリアのルーツ
プロティアンキャリアとは、ギリシャ神話に登場する海神ポセイドンの従者であるプロテウス(Proteus)に由来する「protean(変幻自在の)」という単語と、ビジネスシーンにおける「career」を組み合わせた概念です。日本語では「変化し続けるキャリア」のように訳されます。
プロティアンキャリアが提唱された背景
プロティアンキャリアは、自由貿易が促進される一方で、国内では雇用の流動化や企業の事業縮小が進行した1970年代のアメリカで提唱された概念です。提唱者は組織行動・人事戦略の専門家であるダグラス・T・ホールで、彼は単一の企業に依拠する従来型のキャリアプランに代わる、時代に即した新たなキャリアの在り方としてプロティアンキャリアを提示しました。
プロティアンキャリアの目標
プロティアンキャリアの目標は「個人の心理的な成功」であり、自己実現と言い換えることも可能です。組織における人事評価制度ではなく、自己の満足度を基準としたキャリア形成を促すことで、単一の組織に特化した人材ではなく、自らを取り巻く環境に応じた幅広い視点や手法を取り入れ、変化を受け入れたり選択したりできる人材へとシフトしていくことを目標としています。
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従来のキャリアとの違いと必要な2つの能力
従来のキャリアとの違い
従来のキャリアは昇進や給与水準といった、組織からの第三者視点の評価を軸としたものでした。対してプロティアンキャリアでは、個人の目標達成や心理的成功といった主観と、客観的な評価の双方を考慮する必要があるとし、「キャリアとはプロセスであり、仕事に関する経験の連続」と捉えるのが特徴です。「客観性と主観性」や「成果とプロセス」といった、相対する要素に比重を置く点が対照的と言えるでしょう。このプロティアンキャリアの実践には、大別して以下のような2つの能力が重要とされています。
必要な能力1:アイデンティティ
一般にアイデンティティ(Identity)は「自己認識」「自己同一性」といった意味合いを持ちますが、プロティアンキャリアにおいては「キャリア・アイデンティティ」が「サブ・アイデンティティ」として派生・定着することで、キャリアの発達が促されるとしています。「組織のために何をすべきか」だけではなく「自分自身が何を達成して満足感を得たいか」という、心理的成功の軸となるアイデンティティの確立が重要である、という考え方です。
必要な能力2:アダプタビリティ
アダプタビリティ(Adaptability)は「適応性」「順応力」といった能力を表す言葉です。プロティアンキャリアにおけるアダプタビリティは「適応コンピテンス」「適応モチベーション」の2要素からなり、単に能力というより「動機付け」に近しい側面を持っていると解釈されます。これらは職場などの環境から受ける影響と、自分が環境に及ぼしうる影響の双方を把握した上で、アイデンティティに対しても日常的に自己評価を行う力です。つまり環境とアイデンティティを一致させる試みがアダプタビリティであり、「自分はどうしたいのか」というアイデンティティを「どう行動すれば実現できるのか」につなげるための思考、と言い換えることもできます。
プロティアンキャリアのメリット
キャリア自律の意識が醸成される
プロティアンキャリアでは組織が提示する数値目標の達成や、地位や給与の向上といった他者の評価に囚われすぎず、自己とそれを取り巻く環境を常に見つめ直し、最適化を行う姿勢を主軸とします。そのため、キャリアは「与えられた結果」ではなく「自ら選択し、歩む過程が作り出すもの」という認識が自ずと生まれるでしょう。
時代の変化に適応しやすくなる
上記のようなキャリア自律の意識が醸成されれば、自社での価値基準のみに留まらず広い視野で判断材料を増やし、物事を多角的に捉える力の向上が期待できます。また、アダプタビリティを高めることで自己を取り巻く環境に対してのアンテナが高くなり、その変化に対応するためのスキルを身につける意識も促進されることから、時代の変化に対する即応性も身につくでしょう。
仕事への満足度が向上する
個人の満足度に軸足を置いて仕事と向き合うことで、仕事に対するモチベーションアップを図ることができ、個々の生産性やエンゲージメントを高める結果につながります。また、満足いく結果を求めて新たな視点や手法、スキルを取り入れることは、キャリア・プラトーと呼ばれるキャリアアップの停滞期を打破する効果も期待できるでしょう。
まとめ
個人のアイデンティティと自律を主軸に、主観的評価による満足度と、流動的な環境への適応力を高めるのがプロティアンキャリアの考え方です。変容し続ける現代社会を生きるビジネスパーソンにとってはもちろん、組織の人材育成・キャリア形成という観点からも、広い視野と自己研鑽を基本とするプロティアンキャリアは有効に作用しうると言えるでしょう。